2011年12月28日

品詞の転換


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京都大学の和訳問題(1997年)に次の一節があります。
But it just gave us time to head down to the left, away from the cliff, and towards the safety of the valley and the road which would lead us home.
この題材を1学期に扱ったとき、“the safety of the valley”の部分の解釈(訳出)に戸惑った生徒がいました。

もちろん「谷の安全」と機械的に置き換えることはできますが、前後の流れに合いません。

このような場合、品詞の転換をして意味をとると突破できることがあります。

すなわち、原文に使われている品詞(例えば名詞)とは異なる品詞(例えば形容詞)を訳語として意識的に使うのです。

今回は safety という名詞を形容詞に転換して「安全な谷」と処理します。

目新しく聞こえるかもしれませんが、考えてみれば、

私たちは無意識に many kinds of pets を「多くの種類のペット」と、a lot of pets を「たくさんのペット」と解釈しています。

ですから、「A of B」の型で解釈(訳出)に困ったら、これを意識的にやってみる、というに過ぎません。

(試訳)

しかし、そのおかげで、私たちには崖から離れて左に下り、安全な谷へ、さらには我が家へ続きそうな道へと向かうだけの時間ができたのでした。


(追記1)

類例を挙げておきます。

Mission specialists Mike Fossum and Ron Garan left the safety of the U.S. space shuttle Discovery Tuesday to embark on the first spacewalk of this 14-day shuttle mission.
(火曜日、ミッション・スペシャリストのマイク・フォッサムとロン・ギャレンは、今回の14日間に及ぶスペースシャトル任務での最初の船外活動を行うため、安全なスペースシャトル、ディスカバリーを離れました)



(追記2)

小西友七『英語シノニムの語法』(研究社、1976年、pp.315-7)に“the coldness of winter と the cold of winter”と題する項目が収められており有益です。『特製版 英文法シリーズ 第三集』(研究社、1959年、p.2160)にも小西先生による詳述があります。


(追記3)

金子稔『現代英語・語法ノートU』(教育出版、1997年、pp.75-8)に「注目すべき『 the +抽象名詞+ of +名詞』の表現」と題して類例とともに詳述があり有益です。


(追記4)

井上和子・山田洋・河野武・成田一『現代の英文法 第6巻 名詞』(研究社、1985年、pp.553-8)では「形容名詞」という項目のもとに詳述があります。


(追記5)

中島文雄 編『英文法辞典』(河出書房、1955年、p.6)は


抽象名詞は特質、様態を記述するが、このようなものは、その特質、様態を見出し得る事物を離れては考えることができないので、時折り形容詞と同じような意味を実現するにいたることがある。


として

Wandering stars, to whom is reserved the blackness of darkness(i.e. black darkness)for ever.

an expanse of ocean(i.e. expansive, or vast ocean)


a wide stretch of moorland(i.e. a widely stretched moorland)

などの用例を挙げています。


(追記6)

河原清志 氏の品詞転換論は翻訳学と言語学の立場から論じたもので、参考になります。


(追記7)

関連記事はこちら


posted by 石崎 陽一 at 08:50 | Comment(0) | 読解の学習・指導 | 更新情報をチェックする

2011年06月28日

共通関係を見抜く


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雨は憂鬱ですが、植物がよく育ちますね。

緑がどんどん濃くなっていく様子に励まされている石崎です。

ゴーヤのグリーンカーテンもネットの上まで伸びてきました。

今日はここ数日から一転、西東京は夏日です。皆さまはいかがお過ごしでしょうか。


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少し前の京都大学の入試問題に、

ある作家が幼少期に読んだ覚えのある物語を自分の小説の中に蘇らせようと記憶を辿りつつ

その物語の意味していたものを解明しようとする様子を描いた文章がありました。

その文章に次の一節が見えます。(下線は現筆者による。)

some kind of existence outside, and yet within, 'me'

特にこの下線部の構造がわかりにくいですね。

今回はこの部分にスポットを当てて書いてみたいと思います。



構造が等しい2つの英文があり、それぞれの英文に同じ表現が含まれているとき

その同じ表現を共通項にし、共通でない残りの部分を括弧でくくることによって短縮した1つの英文を作り出す。

このような仕組みが英語にあります。

いわゆる「言語の省エネ」(economy of speech)です。

He speaks, or used to speak, with a very strong accent.
(彼の話し方には、とても強い訛りがある、いや、かつてはあった)

My heart is, and always will be, yours.
(私の心は今も、そしてこれからも、あなたのものよ)


上の例文では、それぞれ下線を施した部分が共通項にあたります。


さて、以上を踏まえ、今回脚光をあてている

some kind of existence outside, and yet within, 'me'

という句(特に下線部)を眺めてみましょう。

このケースでは接続詞がand yet(なおかつ)となっていますので少々見抜きづらくなっているのですが、

'me' を共通項とした共通関係を看取することができますまいか。


(試訳)

「自分の」外にあり、なおかつ「自分の」内にあるような、ある種の存在


(追記)

上に挙げた“My heart is, and always will be, yours.”という文についてですが、このように

頻度の副詞がbe動詞・助動詞の前に置かれると、文の内容が真実であることを強調します。(『英文法小辞典』北星堂、1991年、p.16)

ちなみに、この文はジェーン・オースティンのある作品中の台詞です。プロポーズに使えそうな一節ですね^^


posted by 石崎 陽一 at 17:20 | Comment(0) | 読解の学習・指導 | 更新情報をチェックする

2011年06月04日

単語の意味の絞り込みについて


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ある年の東京大学の要約問題に次の一節があります。

When a pencil or pen is used for a highlighting (that is, underlining) purpose, it is ordinarily used also for writing notes in the margins, a process that greatly intensifies the reader's involvement with the text.

さて、施線部 process の訳語としては何が適切でしょうか?


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posted by 石崎 陽一 at 07:40 | Comment(0) | 読解の学習・指導 | 更新情報をチェックする

2011年06月01日

provide は「なる」と訳出できる場合も


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provide という動詞は「前もって」の意の接頭辞 pro- と「見る」の意の語幹 -vide の足し算です。


「先見する」の原義から「備える」「備えて遣る」「備え付ける」「支給する」「供給する」「あてがう」「与える」などの意味が出ています。

(ちなみに、形容詞形の provident は「先見の明のある、用心深い」の意です。)


しかし、時折次のような用例に出会って訳出に工夫が必要になることがあります。


(1) provide a great pleasure
(2) provide a good indication of〜
(3) provide a valuable clue to〜
(4) provide cause of〜
(5) provide serious competition for〜
(6) provide a good opportunity to do



このようなときは、provide を「なる」とするとうまく処理できます。


(1) 大きな楽しみとなる
(2) 〜のよい目安(判断材料)になる
(3) 〜の貴重な手がかりとなる
(4) 〜の原因となる
(5) 〜にとって脅威的なライバルになる
(6) 〜する良い機会となる



(追記)

-vid- や -vis- といった語幹は「見る」を表し、次の語が派生しています。

video(ビデオ)
★audio にならった造語です。

vision(理想像)
★心の目で見るもの。

visa(ビザ)
★旅券を見てスタンプを押したり書き込んだりして外国に入国の許可を与えたことを証明するもの。

visage(顔つき、顔立ち)
★誰であるかは顔を見てわかります。

visit(訪問する)
★-it は「行く」の意。exit(出口)や itinerary(行程表)という語にも入り込んでいます。文字通り、人を見に行く、人に会いに行くことです。

devise(工夫する、発明する)
★de- は分離を表します。「見分ける工夫をする」が原義。

improvise(即席に作る、間に合わせる)
★not の意の im- と「前もって」の pro- および「見る」の -vis- の足し算ですので「前もって見ないで」が原義。

revise(改訂する、訂正する)
★「再び」の re- と -vis- の足し算ですので「見直す」が原義。

supervise(管理する、指揮する、指図する、監督する)
★over の意の super- と -vis- の足し算ですので「人全体を見渡す」が原義。

evident(明白な)
★「外に」の意の e- と -vid- の足し算ですので文字通り、「見え見え」な様を表します。


posted by 石崎 陽一 at 21:07 | Comment(3) | 読解の学習・指導 | 更新情報をチェックする

2011年05月28日

and のカンマについて


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4月からの質問で意外に多かったのが「and のカンマ」に関するもの。例えば

Japan has hot, sultry weather in summer.

Jane had bright, mischievous eyes.


のような文におけるカンマです。

同位の形容詞を並列させるときは and を使うよりはカンマで区切るのが多いのですね。


3語以上並列するときは最後を and でつなぐことがあります。

She is a kind, wise, and diligent girl.

The room was bright, clean, and quiet.


もちろん、文意によっては、and ではなく but や or でつなぎます。

Mongolia's weather is dry, clear, but changeable.


(追記1)

なお、笹井常三『英語のスタイルブック』(研究社、1999年、p.7)には
「ただし、young, old, little の前には通常コンマを用いない」として
She is a refined young woman.
という例が挙げられています。

(追記2)

一色マサ子『英語の語法 表現篇9 修飾(上)』(研究社、1968年、pp.50-51)には、「限定形容詞の中で、同じような意味内容のものを幾つか並べるときには、大体として、口調から、音節の短いものを先におき、長いものを後におくことが多い」とあります。

例えば、通例

It was a windy, rainy, thouroughly unpleasant day.
(風の吹く、雨の降る、全く不愉快な日だった)

のように言うので、

It was a thourughly unpleasant, windy, rainy day.

とすると「全く不愉快な」ということを強調できると述べられています。


posted by 石崎 陽一 at 09:42 | Comment(0) | 読解の学習・指導 | 更新情報をチェックする

2011年04月22日

カンマが節を結ぶ!?


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もくれんの花はみな明るい空の方向を向いています。

すべての蕾が北の方角に「前へ習え」することから「コンパス・フラワー」と呼ばれているそうです。

西東京は今日、冬の寒さに逆戻りで肌寒い一日でした。

皆さまはいかがお過ごしでしたでしょうか。


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今回は1992年に実施された京都大学の入学試験から英文和訳問題を取り上げ、「カンマが節を結ぶ!?」というテーマで書いてみたいと思います。

まず、次の英文をお読みいただければと思います。


(1) Consequently, not only has the audience for drama increased by truly astronomical progression as compared to previous ages, the actual quantity of dramatic performances produced has gone up in equal proportion.


一読して誤植かなと思われた方もいらしたのではないでしょうか。

カンマで2つの節が結ばれているからです。

このような構文について、真野泰氏は次のように述べておられます。


きっと、本当は副詞にすぎないnot onlyが、従属接続詞を導く接続詞のように感じられるからでしょう。


なるほど。


斬新な視点です。


しかし、一般的に従属接続詞で始まった文は「S+V」が「このままの順で」カンマを挟み2セット現れるはずです。

この場合はどうでしょうか。


そう、not onlyからカンマまでが倒置(語順転倒)を起こしているのでこの説明には少し無理があるのではないかと思うのです。


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そこで私は次のような仮説を立ててみました。

1.この文は“not only A but (also) B”という相関表現においてAもBも節であるパターンである。

2.2つの節を結ぶ等位接続詞のbutはセミコロン(;)で表されることがある。

3.意味上、相関表現によってつながれる2つの節の緊密度が高いため、セミコロン(;)の上のドットを落としてカンマが用いられている。

いかがでしょう。


なお、3.のようにカンマを接続詞の代わりに使う傍証として、次の例を挙げておきます。

The sun is shining, the larks are singing.
(太陽は輝き、ひばりは歌っている)

こうした対照的な短文でカンマが接続詞の代わりに使われることがあります。

特に、簡潔さを尊ぶ諺・格言・名言で重用されます。次の例で、2つの節の緊密度はかなり高いと言えるでしょう。

Speech is silver, silence is gold.
(雄弁は銀、沈黙は金)

Life is short, art is long.
(人生は短く、芸術は長し)


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さて、上記の英文を一般的な語順に直し、副詞(句)を省いて書き改めてみます。

(1)’the audience for drama has not only increased, the actual quantity of dramatic performances produced has gone up.

quantityはここでは「数」と解釈すべきでしょう。

試訳すると「観劇客の数が増えているだけでなく、実際の上演回数も増えている」となります。

(1語なのに名詞を後置修飾しているproducedに関しては機会を改めて記事にしたいと思います。)

この文の骨格が「AだけでなくBも」という相関表現ですから、カンマで区切られた前半の節の動詞“has increased”と後半の節の“has gone up”とが同意であることは容易に察することができるはずです。

同様の推察を、先ほど便宜上省いた副詞句にも適用してみますと

(1)’’not only has the audience for drama increased by truly astronomical progression as compared to previous ages, the actual quantity of dramatic performances produced has gone up in equal proportion.

下線を施した2つの句が同意だと見立てることができましょう。

何しろ“in equal proportion”「同様の比率で」とあるのですから、progressionは「比率」という意味だろうと推測できるはずです。

相関表現と未知語の意味の推測。

これが本エントリーの裏テーマでした。

(試訳)

その結果、以前に比べて観劇客の数がものすごい勢いで増えているだけでなく、実際の上演回数も同様に増えているのだ。


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(追記)

真野泰氏の説明は『英語のしくみと訳し方』(研究社、2010年、p.39)から引用しました。


posted by 石崎 陽一 at 00:37 | Comment(2) | 読解の学習・指導 | 更新情報をチェックする

2011年04月21日

並列関係を見抜く


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等位接続詞が何と何とを結ぶかに注目することが正しい読解につながります。

もうかれこれ10年以上前になりますが、京都大学の英文和訳問題に次のような箇所がありました。

Drama has become one of the principal means of communication of ideas and, even more importantly, modes of human behaviour in our civilisation.

さて、下線を施したandがつなぐのは何と何でしょうか?

andやor, butといった等位接続詞は文法上対等な関係のものを結びますが、この例のように文法上並列関係になってもおかしくない箇所が複数出てきた場合は見抜きづらいですね。

そんなときは文脈、つまり内容面から並列関係を探るより仕方ありません。

「ダブルカンマは括弧の印」ですから、今回は“even more importantly”を括弧に入れていったん無視して考えます。

また文尾の“in our civilisation”は「現代文明においては〜となっている」と述語動詞“has become”を修飾していると考えられます。


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もし仮に“one of the principal means of communication of ideas”と“modes of human behaviour”とを結んでいると解釈した場合、結局

(1) Drama has become modes of human behaviour.

ということになりおかしいですね。
(人間の行動様式が演劇なのではない。)

また少し強引に“means of communication of ideas”と“modes of human behaviour”とを結んでいると解釈した場合、これも詰まるところ

(2) Drama has become one of the principal modes of human behaviour.

ということになりやはりおかしくなります。
(人間の主たる行動様式の1つが演劇なのではない。)

他の可能性はいかがでしょう。


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そうです。

ここでは“ideas”と“modes of human behaviour”とを結んでいると解釈するのが自然と思われます。

つまり、次のように見るわけです。

(3) the principal means of communication of ideas and modes of human behaviour

さてしかし困りました。

“communication of O”の部分を単に「Oのコミュニケーション」や「Oの伝達」などとしては「思想や人間の行動様式の伝達の主要な手段」のようになってしまい、日本語として不自然になってしまいます。


う〜む。


そんなとき思い出してもらいたいのが次の手法です。

今回の“communication of O”のように他動詞の名詞形を訳出する際は、元の動詞に戻して「V+O」の関係を考えると日本語として通りがよくなることがあるのです。

例を挙げます。

As a word and an idea fit together better, the communication of the ideas will be clearer and more effective.
(ある語とある概念とがぴったり合っていればそれだけ、その概念を伝えるのはより明確に、また効果的になるだろう)

今回の場合は“communicate O”という形に読みほどいて処理すると「思想と人間の行動様式とを伝える主要な手段」となりうまくいきます。

(試訳)

現代文明において、演劇は、思想と、そして何よりも人間の行動様式を伝える主要な手段の1つとなっているのだ。


posted by 石崎 陽一 at 00:32 | Comment(0) | 読解の学習・指導 | 更新情報をチェックする

2010年08月02日

和訳の大前提その2


これからの季節、年末にかけて東大受験生の個別指導を請け負います。なかには初めて接点が生まれる生徒もいます。

生徒が過去問を解いてきて、私が添削をするわけですが、

毎年のように誤訳の頻発する問題があります。


今回はそのことについて書いてみたいと思います。


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2005年、東京大(前期)の英文和訳の問題

大問4のB、下線部(3)に次のような箇所があります。

it[=the universe]might contain other worlds like the earth


この英文のworldsをどう訳すか、という問題です。


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posted by 石崎 陽一 at 18:30 | Comment(0) | 読解の学習・指導 | 更新情報をチェックする

2010年07月30日

和訳の大前提


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2005年、小樽商科大(商)の英文ですが

第2パラグラフ冒頭の

(1) Journalists can function in three different ways.

という文に続く第2文

(2) Firstly, they can act as 'servants of the state' reporting only news that supports those in power and ignoring or simply criticizing opposition to the state.

に下線が引かれており、日本語に訳すよう求められて
次のように和訳したとします。

「最初に、権力や無知に支えられている情報や、単に国に対する反対意見を批判する「国の職員」として行動できる。」

その人が次に心がけることは何でしょうか?

文構造の把握?

そうですね。

等位接続詞のandやorが何と何を結んでいるか
いわゆる「共通関係」をつかむ練習が必要かもしれません。

他には?

そうそう、those in powerという語句の理解も詰めなくてはですね。

訳語の選択の仕方?

ええ、特にservantやoppositionの意味の取り方に改善の余地があります。

このようにいくつかの観点から言うべきことがありそうですが
ここでは大前提になる話を書きたいと思います。


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posted by 石崎 陽一 at 17:27 | Comment(0) | 読解の学習・指導 | 更新情報をチェックする
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