2013年08月11日

同一語源結合の法則


poppy-color.jpg



unkind はよくて inkind は受容されず、insane はよくて unsane は受容されない。

semifinal はよくて hemifinal や half-final は受け入れられない。

また、foretell はよくて pretell は受容されず、symphony はよくて comphony は受け入れられない。

この点について、西川盛雄『英語接辞の魅力−語彙力を高める単語のメカニズム−』(開拓社、2013年、p.83)は次のように指摘しています。


英語は(中略)実にさまざまな言語の接触(衝突)・混交・変容によって今日に至っています。いわば本来語と外来語とのせめぎ合いです。本来語はアングロ・サクソン系の古英語・中英語・近代英語に連なるものです。外来語は主に古ノルド語、ギリシャ語、ラテン語、そしてノルマン・コンクェスト以降のノルマンのフランス語です。本来語である英語を基礎としながらも、これら外来語との交わりに際しては、基本的にでたらめな結合ではなく自ら一定の原則がはたらいていました。それが同一語源結合の法則です。複合語形成や接辞付与による派生語形成などにこれがみられます。


基本的に、同一語源以外のものとの結合ではいわば拒絶反応を起こすと考えられるということでしょう。


posted by 石崎 陽一 at 21:06 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年08月03日

ギリシャ語もやはり潜在的な英語だと言えそうである


ha_138.jpg



いささか唐突ですが、

睡眠時無呼吸症候群という病気がありますね。

無呼吸とは一時的な呼吸停止の状態をいうのですが、

無呼吸が続くことで身体に負荷がかかり、

生活習慣病につながったり

昼間の眠気による事故を引き起こしたりする可能性のある疾病です。

さて、この睡眠時無呼吸症候群は英語で SAS と略称されています。

最初の s が sleep, 最後の s が syndrome のイニシャルであることはすぐに看取できましょう。

では、真ん中の a は何か、と言えば、apnea の略です。

a- は 「何々なしの」の意の接頭辞、-pnea は「呼吸(法)」の意の連結形ですから、

apnea は文字どおり「無呼吸」を表しているわけですね。


最後に -pnea を含む英語をまとめて掲げて今回のエントリーを閉じたいと思います。

それは polypnea, tachypnea, dyspnea, hyperpnea の4つですが、

次の接頭辞の表す意味をヒントにしてどんな呼吸の状態かを推測してみてください。

● poly- は「多くの、複」の意。

● tachy- は「急速な」の意。

● dys- は「不全」「異常」「悪化」「不良」「困難」「欠如」の意。

● hyper- は「過度の、過多の」の意。


続きを読む
posted by 石崎 陽一 at 06:25 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年07月31日

東西におけるネーミングの類似


Unter den Linden.jpg



ドイツはベルリンの街路に Unter den Linden という大通りがあります。

第2次世界大戦前は市民の社交・文化生活の中心として賑わっていました。

英語に直訳すると under the lime trees(菩提樹下)という名づけ方ですが、

このネーミングの仕方は私に京王線の「明大前」という駅名を想起させ、興味深いです。


(追記)

ウンターデンリンデンについての説明は、『リーダーズ英和辞典 第3版』(研究社、2012年、p.2568)を参照しました。


posted by 石崎 陽一 at 00:00 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年07月30日

水虫治療薬とボキャビル


象とサイ.jpg



象やサイのような哺乳動物を総称して、英語では pachyderm と言います。

pachy- は「厚い」の意の連結形、derm は「皮、皮膚」ですから、

pachyderm とは文字通り「厚皮動物」を表す語です。

例文を挙げましょう。


The scientific term for an elephant is a pachyderm, which means thick-skinned animal. An elephant's skin is extremely thick and tough and around most parts of its body it measures about 2.5 centimeters thick.


また、-dermia となると「皮膚の症状」の意であり

pachydermia と言えば「硬皮症」を表します。


その他、「皮、皮膚」を意味する derm を含む語には

epidermal, hypodermic, dermatology

などがあります。

epidermal は epi- が「何々の上の、何々を覆う」の意の接頭辞ですから

「表皮の」の意味であることは想像に難くないでしょう。

epidermal cancer と言えば「表皮がん」のことです。


skinlayers.jpg



hypodermic は hypo- が「何々の下の」の意の接頭辞ですから、

「皮下の」の意味を表します。

hypodermic injection と言えば「皮下注射」のこと。

hypoderm で「皮下注射器、皮下注射針」の意です。


hypodermic.png



dermatology は -logy が「何々学」を表しますので

「皮膚科(学)」の意味を表します。

ちなみに、私は、学生時代、

大正薬品の「ダマリン」という皮膚の水虫治療薬の名前から

この derm という語根を覚えた記憶があります。


ダマリン.jpg



posted by 石崎 陽一 at 16:47 | Comment(2) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年07月27日

骨組みになる子音が共通観念を表わし、母音の相違で意味を多少変えるという視点


a0002_008072.jpg



Henry Bradley, The Making of English(Macmillan & Co., 1904, p.158)は

骨組みになる子音が共通観念を表わし、母音の相違で意味を多少変える

という視点を示していて、私には非常に興味深く思えます。

(翻訳は寺澤芳雄 訳『英語発達小史』(岩波文庫、1982年、p.104)より採ります。)


It is worthy of note that many of the words that have in this way been invented as instinctive descripitions of action or form occur in groups of two or three, in which the consonants are alike, while the vowel is varied to express differences of mental effort. Thus we have bleb, blob, blub-cheeked, all denoting something inflated. The initinal bl was perhaps suggeted by the verb blow; the pronunciation of the syllables involves an inflation of the cheeks which is symbolical of the notion common to the three words, and the different degrees of fullness in the vowels are obviously significant of differences of size in the object denoted. Other instances in which the notion expressed by the consonantal skeleton is modified by difference in the vowel are jiggle, joggle; flip, flap, flop; chip, chap, chop; fimble, famble, fumble; flash, flush.

さらに注意すべきは、次のように音それ自体に、ある動作や形状を表すものが内在しているような語の場合には、子音はそのままにし母音だけを変えることにより、異なる印象を与える二、三語の語群を作り出すことができることである。例えば bleb(水ばれ、泡)、blob(水滴)、blub-cheeked(ふくれっ面の)では、いずれも丸くふくらんだ物を表している。語頭音 bl- はおそらく blow(吹く)から連想したものであろう。この三語を発音するためには頬をふくらまさなければならないが、それは三語に共通な観念を象徴しており、また母音の音量の大小はその表す事物の大きさに明らかに関係がある。骨組みになる子音が共通観念を表わし、母音の相違で意味を多少変える例は、この外 jiggle(軽く揺り動かす)と joggle(がたがた揺する)、flip(はじく)と flap(羽ばたく)と flop(どさりと落ちる)、chip(削る)と chap(ひび割れる)と chop(ぶち切る)、fimble(〔廃〕指先でまさぐる)と famble(〔廃〕口をもぐもぐする)と fumble(手探りする)、flash(ぱっと出る)と flush(どっと流れる)などである。



bl- のもつイメージは、日本語の「ふくれる」や「ぶくぶく」の、また、「膨張」や「膨大」というときの「膨」のもつイメージに近いですよね。

こちらも、とても面白く感じた次第です。


posted by 石崎 陽一 at 10:18 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

英語にとってラテン語は潜在的な英語である


a0960_003444.jpg



何か新語が必要なとき、英語はラテン語をそのまま英語にすることが多いことから、

Henry Bradley, The Making of English(Macmillan & Co., 1904, pp.94-5)は次のように述べています。

(翻訳は寺澤芳雄 訳『英語発達小史』(岩波文庫、1982年、p.104)より採ります。)


It has come to be felt that the whole Latin vocabulary, or at least that portion of it which is represented in familiar classical passages, is potentially English, and when a new word is wanted it is often easier, and more in accordance with our literary habits, to anglicize a Latin word, or to form a compound from Latin elements, than to invent a native English compound or derivative which will answer the purpose.

そういうわけで、ラテン語の全語彙あるいは少なくともよく読まれるラテン語テクストに出てくる単語は、英語としての潜在力をもっている。つまり、何か新語が必要なときには、ラテン語をそのまま英語化するか、またはラテン語の要素を結合して合成語を造る方が、本来語でその場合の必要に合うような合成語や派生語を作るより容易なことが多いと考えられるようになった。



よって、


Our literary vacabulary abounds with words which owe their mental effort not to any English traditions, but to the reader's knowledge of the Latin etymology.

文章語で用いられる英語は、その与える心象が英語の慣用によるというよりもむしろ読者のもつラテン語の語源知識によっている場合が非常に多い。
(『上掲書』p.95)


と指摘しています。


posted by 石崎 陽一 at 09:48 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年07月23日

Mod E. become の意味変化について


file000551096837.jpg



桝井迪夫「英語の辞書」(『現代英語教育講座 第12巻 基本図書の解説』(研究社、1965年、p.170))によりますと、

C.T.Onions et al.(eds.), The Shorter Oxford Dictionary on Historical Principles(OUP, 1974)は、


親辞典の OED をそのエッセンスを失わずに見事に縮約した


もので、


年代的に語の意味を配列したこと、それに応じる用例を英文学の詩人・作家の例を必要な箇所だけ簡潔に示したこと、従って意味と用例を引き合わせしやすいのが特色


とされています。

いま、この SOD で become の項を引き、語義欄より引用します。


☨1.intr. To come(to a place), to arrive;
    later, to go [-1737]  Also ☨ transf.
☨2.To happen; to befall [-1655]
 3.To come to be(something or in some state)[ME]
 4.To come into being [1598]
 5.To accord with; to befit(obj. orig. dat.)
 6.impers.(now usu. with it.)
  ☨a.(absol., with to, for or clause.)
      Replaced by ‘it is becoming’. [-1591]
   b.with object.(orig. dat.)To befit [ME]
 7.Hence, To look well(on or with), to set out [ME].;
   hence, To look well in(a dress, etc.) [1660].



この記述より、次の意味変化を辿ることができるかと思います。


1.(場所)に至る ➔(そういう状態)になる

2.に着く(➔ に付く)➔ に遭う ➔ に適う ➔ に似合う



日本語にも同様の意味変化の類例があるように思われます。

古語に「つきづきし」がありますが、

大野晋他編『岩波古語辞典』(岩波書店、1974年)では


いかにもぴったりとはまっている感じである。取りあわせがよい。ふさわしい。《「付き付きし」の意》


と記されています。

また、

「そうこなくちゃ面白くない」



「この靴わたしにピッタリくるわ」

など、日常生活でも耳にしますね。

こうした類似性に興味をそそられた次第です。


(追記)

現代ドイツ語で bequem と言えば「便利な」の意です。


posted by 石崎 陽一 at 14:30 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年07月20日

mirror と miracle, admire の関係


Rubens_Venus_at_a_Mirror_c1615.jpg



mirror(鏡)の語源は俗ラテン語の mīrāre です。

mīrāre は to look at の意ですが、さらに古典ラテン語の mīrārī に遡ります。

mīrārī は to wonder at の意ですので、

すなわち、mirror とは、語源的には、それに形を映して、「驚きいぶかるもの」「熟視するもの」ということになりましょうか。

ですから、同根の miracle は「驚くべき」が原義なのですね。

ここから、超自然な、不思議なこと、神業、奇跡を指すようになりました。

(ちなみに、mirage(蜃気楼)や marvel も同源です。)


mirror の関連語に admire があります。

ad- は「何かに向かって」の意ですから、何かに向かって「驚く、感嘆する、うっとりする」が admire の原義です。

ここから「賞賛する」の意が出たのも頷けますね。


(追記1)

古典ラテン語はおよそ紀元前75年から紀元後175年にかけて用いられた文語です。

俗ラテン語は古典ラテン語と同時代の口語です。

当時ローマの中流人士の使用していた日常語で、ロマンス諸語(イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語)の起源となりました。

以上、ジャクリーヌ・ダンジェル 著・遠山一郎/田大介 訳『ラテン語の歴史』(文庫クセジュ、2001年)の第1章に基づいて記しました。


(追記2)

『世界言語槪説 上巻』(研究社辞書部、1955年、p.459)より引きます。(漢字は新字体に、仮名は現代仮名遣いに改めてあります。)

ここにラテン文語と民衆の日常語との間に大きな懸隔が生じた。二世紀まではよかったが、三世紀に至るとその差は著しくなった。上流や知識人は古典ラテン語に必死となって縋りついていたが、民衆のラテン語との差は余りに大となって、文学のラテン語は恐らく彼等には解し得なくなったであろう。


posted by 石崎 陽一 at 12:51 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

define


definition-of-define.jpg



英語で「定義する」を意味する語に define があります。

de- は「切り離して」(apart)の意、語幹の fin は「終わり、境界」の意ですから、

ある事柄を他のいろいろな事柄から切り離し、正確にその事柄の輪郭を造る

というのが原義です。

『新明解国語辞典 第七版』(三省堂、2013年)で「定義」を引きますと、

ある事物について、それを表す用語の意味や適用される範囲を、これだけの条件を満たすものだと定めること(p.1018)

と定義されていますから、まさにドンピシャといった感じですね。


(追記1)

「切り離して」(apart)の意の de- を含む語には、他に derail(脱線する), defrost(霜をとる、解凍する), deviate(逸脱する), deport(国外追放する、本国送還する)などがあります。


(追記2)

fin(終わり、境界)という語幹からは finish(終わる、終える), final(最後の), finale(フィナーレ、終局), finite(限りある), infinite(限りない、無限の)などが出ています。


posted by 石崎 陽一 at 11:54 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

transparent


leptocephalus-transparent-larva-eel-fish.jpg



transparent は「透明な」さまを表す語です。

trans- は「横切って」「越えて」「通って」「貫いて」の意ですが、

こうした意味の変わり方は私たちの頭で十分に理解できましょう。

-parent の部分は apparent(一見すると〜のような)という語の後半要素と同じ意味をもっています。

apparent の動詞形が appear であることからわかりますように、

-parent は「見える、現れる」を示しているのですね。

よって、transparent は、「透明な」さまを、ある物体を「通して見える」と表現した造りの語であると言えましょう。


posted by 石崎 陽一 at 11:35 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

compute と count


a0800_001179.jpg



前回のエントリーで compute は「まとめて考える、決算する」というのが原義だったことを見ましたが、

この compute という語は英語にとっての外来語でして、

履歴を辿りますと、ラテン語から直接英語に入ったことがわかっています。

これに対し、フランス語を経由して英語に入った結果、形が崩れてしまったのが、実は、count という語なのですね。

ですから、count に「考える、見なす」という意味があるのも、当然といっちゃ当然です。

このように、元来は同一の語であったものが、フランス語を通じて英語に入ると、形が崩れている場合が散見されます。

fragile と frail, example と sample, secure と sure など枚挙に暇がありません。

英語における類義語の多さ(豊かさ)は、英語が歩んできた歴史に大きく関係しているのですね。


(追記1)

ラテン語は死語になりましたが、ローマ領土の各地方における、その土着の方言の一つがフランス語となったのでした。

(追記2)

英語の sure と secure は意味の上では多少の相違がありますが、同じ語源を有する語です。

すなわち、両語とも、se-(離れて)+ cūra(care)という造りであり、

「心配からほど遠い、心配のない」の意の形容詞で、sure は secure のつまったものなのですね。

「心配のない」状態は secure(安全な)であり、また sure(確か)でもあります。

以上、『スタンダード英語語源辞典』(大修館書店、1994年)の secure と sure の項に基づいて記しました。


posted by 石崎 陽一 at 10:47 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

computer と「考える」の関連、そしてボキャビル


a1380_000476.jpg



computer は一般には「電子計算機」と訳されています。

「計算する」ためには考えなければなりません。

computer という語の語幹である pute は「考える」であり、

接頭辞の com- は「共に、一緒に」の意ですから、

compute は「まとめて考える、決算する」が原義でした。

computer はこの compute に「何々するもの」を表す接尾辞 -er が付いたものですから、

コンピュータとは、文字どおりには、電子頭脳による、考える機械というほどの意味なのですね。



a1380_001140.jpg



「考える」の意の語幹 pute をもつ語は、他に dispute, impute, repute などがあります。

dispute の dis- は「離れて」の意ですので、

「別な考え方をする」という原義から

「疑う、異議を唱える」の意味が出ました。

ここから「口論する、議論する」「対立する、敵対する、抵抗する」などの意味が派生するのは自然なことに思えます。


impute は望ましくないことを誰かのせいにする、「責任転嫁する」の意です。

im- は「何々の中に」の意ですから、「責任や罪などが誰かにあると考える」が原義です。

impute a fault to [誰々](過失を誰々のせいにする)

のように使います。


repute の re- は「再三再四」の意ですので、「再三考える、あれこれ思う」が原義です。

ここから「考える、見なす」の意味が出て、どう見なしたかを「評する」に至るまでは遠くないでしょう。

なお、

It is reputed that the man accepted the birbe.
(賄賂を受け取ったという評判だ)


のように、通例受け身で使われます。

なお、名詞で repute と言えば「評判、世評、噂」の意です。

persons of good repute(評判のよい人々)


上で見ましたように、

日常語は別として、多くの語は、語幹を中心に、手足とも言うべき接頭辞や接尾辞から成り立っています。

よって、単語を覚える際、いきなり全体の意味をつかもうとせず、まず各要素に目を通すことをお勧めします。

そうすることで、未知語の意味が推測できることが多いからです。


posted by 石崎 陽一 at 10:25 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年07月19日

一方がラテン語系で、他方がギリシャ語系という類義語の組


a0960_004727.jpg



例えば、「共感、同情」を表す英語の類義語に compassion と sympathy がありますが、

語源辞典を繰りますとすぐわかりますように、

compassion はラテン語に由来し、sympathy はギリシャ語に由来しています。

compassion の com- も、sympathy の sym- も「共に」「同じ」の意味ですが、

com- はラテン語の、sym- はギリシャ語の接頭辞です。

compassion の -passion も、sympathy の -pathy も「感情、気持」の意味ですが、

-passion はラテン語から、-pathy はギリシャ語から来ています。

在来の英語で敢えて言えば、same-feeling とでもなるところでしょうか。

このように、英語には、類義でありながら、一方はラテン語系で、他方はギリシャ語系という組の語が散見されます。

1つの語が2つ、ないし3つの類義語をもつ場合が少なくないのですが、

com- や sym- が「共に、同じ」を表し、-passion や -pathy が「感情、気持」を示す

といった具合に、接頭辞、接尾辞を知ることによって、定着度が違ってくるはずです。

このような方法は、一見、遠回りな作業に見えますが、語彙増強に際しては強力な力を発揮してくれます。

理屈で覚えるので忘れにくく、連想も伴うので思い出しやすいのですね。


(追記1)

『ウィズダム和英辞典』(三省堂、2007年、p.1229)および『アンカーコズミカ英和辞典』(学研、2008年、p.1879)によりますと、

sympathy は他人の悲しみや苦しみなどを理解して同じ感情を持つことをいい、日本語の「同情」にも「共感」にも相当し、

compassion は事情を察し、助けになるよう振る舞おうとする「深い思いやり」の気持ちを表すとされます。


(追記2)

両方の唇をくっつけて発音する b や p, m の直前は、上唇と下唇が離れる n ではなく上下の唇が接する m でないと都合が悪い。

syn- が b や p, m の前では sym- となるのは如上の理由によります。

ローマ字で「新聞」を shimbun と表記するのと同じ要領ですね。


posted by 石崎 陽一 at 19:12 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年07月06日

学術用語を構成する要素


200px-Newhollandhoneyeater.jpg



Meliphagidae は写真の鳥、すなわちミツスイ科の鳥(honeysuckers)を表す語です。

meli- は honey を、-phag- は to eat をそれぞれ意味し、

-idae は動物学上の科を表す複数名詞を造る語尾ですから、

構成要素を見ますと、文字どおりの語義であることに気づくことでしょう。

このように、学術用語はほとんどが合成語であり、

一見複雑な専門用語も、

それを構成している要素に分析することで理解が容易になるのですね。

そしてこうした構成要素は古典ギリシャ語、ラテン語から採用されていて、

通常の英語の知識だけでは見当のつかないものが多い。

では、なぜ日常の英語とは異なった要素を用いるのか、と言えば、

そうすることで、

言語につきまとう日常的な要素、感情的な要素を排除する効果が望まれるからでしょう。

では、なぜ古典語か、と言えば、

古典ギリシャ語とラテン語は、昔から、ヨーロッパ諸言語の、いわば国際共通語だったからです。

近代に至るまでは、いかなる学問であれ、すべて学術書はラテン語で書かれていたのですね。


(追記1)

-idae はラテン語から入った名詞の複数形語尾であり、alumnae(大学[学校]の女子卒業生;女性の旧会員[旧社員、昔の仲間])や vitae(経歴、略歴;履歴書)などにおけるように、[iː] と読まれます。


(追記2)

-idae の単数形は -id で、科および綱からの派生で名詞を造ります。

例えば、サケ科(salmonidae)の魚は salmonid と括られるというわけです。


(追記3)

-phage は「むさぼり食うもの」の意を表す連結形で、

bacteriophage(バクテリオファージ)やmacrophage(大食細胞)など、主として食細胞の造語に用いられます。

bibliophage(読書狂、本の虫)といったユーモラスな語もありますが、

語末にくる関連形のひとつに -phagi があり、anthropophagi(食人種)のような語もあります。

(anthrop- の部分は「人、人類」の意です。)

また、-phagia とすると病名になり、monophagia(偏食、単食症)や polyphagia(多食症)といった語が出ています。

-phagous は「(ある種の食物を)食べて生きている、むさぼり食う」の意の形容詞を造ります。

meliphagous(蜜を餌とする、吸蜜性の、花蜜食性の)という語もあります。


(追記4)

「(薬用の)蜂蜜」を表す語に mel があります。

hydromel と言えば「(発酵しない)蜂蜜水液」のことで、

発酵したものは mead と呼ばれます。

mead と mel、この2つの系統の語彙に関する考察は風間喜代三『ことばの生活誌−インド・ヨーロッパ文化の原像へ−』(平凡社選書、1987年、pp.178-88)に詳しく、大変興味深いです。

mel の関連語を、ほかにも挙げておきます。

mellite と言えば、褐炭中にみられる蜂蜜色の鉱物である「蜜蝋石」や、蜂蜜入りの薬剤である「蜜剤」を表します。

「何々を生ずる」を表す語尾である -ferous が付いた melliferous は「蜜を生ずる、甘美な」の意。

「流れる」を表す語幹である -flu- を含む mellifluous は「(声・音楽などが)なめらかで美しい、甘美な、流麗な」や、「(菓子などが)蜜[甘味]のたっぷりはいった」の意。

oenomel(オイノメル)は葡萄酒に蜜を混ぜた飲料を言う語です。

oenophile(ワイン愛好家、ワイン通)という語もあるように、oeno- は「ワイン」の意なのですね。


(追記5)

本記事の執筆に際し、以下の文献を参照しました。

成田圭一『英語の綴りと発音 「混沌」へのアプローチ』(三恵社、2009年、p.109)
『プログレッシブ英語逆引き辞典』(小学館、1999年、p.937)
『科学英語語源小辞典』(松柏社、1999年)



file000524574279.jpg



学ぶということはどういうことなのだろう。君達は知っているだろうか。それは意識の改革を意味すると私は考える。君達が今この教室に来た時に、ある意識、価値観、信念をもっていたとしよう。それをたとえば「意識A」としよう。この授業を受けて、その「意識A」が変化し、「意識B」になったとしたら、君達は学んでいると言える。

津田幸男『英語支配の構造』(第三書館、1990年、p.207)



posted by 石崎 陽一 at 06:45 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年06月29日

エーゲ海と archipelago


the Aegean Sea.jpg



地中海の東部、ギリシャとトルコの間にエーゲ海(the Aegean Sea)があります。

なにせ大小合わせておよそ2,500もの島々が点在する多島海ですから、

のちに

the Aegean Sea は

「多島海」や「諸島、群島」

を意味する英語 archipelago の由来となりました。



a1150_000127.jpg



さて、「多島海」「諸島、群島」の意を表す archipelago ですが、

前半要素 archi- は chief の意であり

後半要素 -pelago が sea の意ですので、

the chief sea が原義です。

多数の島々が所在する(その地域の)主要な海ということから

the Archipelago と言えばエーゲ海を指すのですね。

ちなみに、sea を意味する -pelago からは

pelagic(海洋の、遠洋で行う)という形容詞が出ており、

pelagic fishery(遠洋漁業)のように用いられています。


(追記1)

Aegean はギリシャ神話に登場する王様 Aegeus(アイゲウス)にちなみます。

息子 Theseus が死んだと思いこみ、悲しみのあまりエーゲ海に身を投げたとされているのです。


(追記2)

語頭にある arch- は、次にくる字によって二通りの読み方があります。

archaic(古風の), architect(建築家)など、

arch- の次に母音がくれば [ɑːk] と読みます。

一方、

archbishop(大僧正), archduke(大公); archway(アーケード)など、

arch- の次に子音がくれば [ɑːtʃ] と読みます。

なお、archery などの arch- は母音の前にありますが、

元来 arch [ɑːtʃ] の派生語ですので、[ɑːtʃ] と読みます。

以上、長井氏晸 著・荻原恭平 改訂『新訂新版 英語ニューハンドブック』(研究社、1967年、p.50)に基づいて記しました。


(追記3)

Aegean という語における <ae> という綴りは [iː] という音を表しますが、

この字は主にラテン語・ギリシャ語から入った語に用いられる二重字(digraph)であり、

かつては “Æ”, “æ” とも綴られていました。

今日でも、“Æsop's Fables” とか “Encyclopædia Britanica” といった表記を目にすることがあります。

以上、成田圭一『英語の綴りと発音 「混沌」へのアプローチ』(三恵社、2009年、p.109)を基に記しました。


(追記4)

本記事を執筆するに際し、以下の文献を参照しました。

『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年、pp.19, 62-3)
『リーダーズ英和辞典 第3版』(研究社、2012年、pp.36, 1851)


posted by 石崎 陽一 at 20:11 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

東西の類似


a0007_002232.jpg



山中襄太『日本語源の史的究明』(校倉書房、1978年)において、

この語源研究家は


わたしのやっていることは「暗中模索」である。そして「語源論」を主としているのであって、「系統論」を云々しているのではない。(p.31)


と断り書きをした上で、


日本語の語源を考えるのに、日本語の枠内をいくらつついてみてもそれには限度がある。なるべく「視野を広く」「射程を遠く」して多くの参考資料を集めて比較考察することが必要である。ibid.)


と述べ、

巻末に東西類似語一覧を掲載しているのですが、

そのうち、漢欧類似語のリスト(pp.209-23)を眺めているだけでも楽しめます。

ごくごく一部を挙げてみますと、


ギョウ(堯、土徳の帝)、ジョウ(壌) 英語 geo-, ギリシャ語 gē(earth)
キン(近) 英語 kin(nearness by birth)
ケン(見) 英語 ken(to see and know, view)
ゲン(元、源) 英語 gen-(birth, descent)
シン(新)、セン(鮮) 英語 cen-
ミツ(蜜) 印欧祖語 *medhu-, 英語 mead
ミョウ(猫) mew, miaow(the cry of a cat)
ム(牟、牛鳴) 英語 moo
ユウ(優、尤) ギリシャ語 eu(good, well)
ラク(酪) ラテン語 lac(milk)



といった具合。

偶然か否かを問わず、こうした対応関係は私にとって興味深く感じられた次第です。





あ、ボキャビルにも援用できそうですね。



a1150_000116.jpg



人類の脳や目や耳の構造が本質的にはどの人種でも同じである以上、音表象にも同じ根拠があることは容易に推測できる。基本語の語根が音表象である場合は、共通要素があるのは当然であって、そうでなければかえっておかしい。言語によって大いに異なってくるのはその後の音韻変化や合成の仕方であろう。私は人類の諸言語の一番の基底部には、共通に理解できる音表象があった場合が多いという考えに傾いている。

渡部昇一『英語語源の素描』(大修館書店、1990年、p.E)


有史以後も、ギリシャ・ローマやオリエントの文化が、いわゆる「絹の道」・「玉の道」・「香料の道」を通って、アジア諸国や日本にまで伝わってきた。有史以前も、民族の移動・文化の交流が行われたことは、出土品などから見ても明らかである。すれば言語といえども、交流が直接または間接に行われたであろうということは想像されると思う。

山中襄太『地名語源辞典』(校倉書房、1968年、p.7)



(追記1)

風間喜代三『ことばの生活誌−インド・ヨーロッパ文化の原像へ−』(平凡社選書、1987年、p.184)でも *medhu- という形と中国語の「蜜」、日本語の「ミツ」との著しい類似性について触れられています。

(追記2)

井上義昌『英米故事伝説辞典 増補版』(冨山房、1980年)より引きます。

「幾何」という語は日本では「キカ」と読むが、中国では「ジホ」と読む。この語は中国の字音で、geo- の発音に近い文字を選んで、一方においては「幾何−いくばく−どれだけ」という点で、‘metry’(測量)の意味を持たせたものであろう。(p.263)

ギリシャ神話に Gaea [一名 Ge(大地)] という女神があり、Uranus(天)と夫婦になって万物を生んだという。すなわち Demeter = Gemeter = Ceres = Earth-mother(大母、地母)で、「万物の母」、「農業の母」である。geo-(「土地」の意味の接頭語)はこれに関係があり、多くの学術語に使われる。たとえば、geography(地理学、geo- 土地について、graphy 記載したもの)、geology(地質学、土地についての logy 学問)、geometry(幾何学)など。George も「地主」の意である。

geo- の発音はジオ、ジェオ、ゲオなどと、国によって違うが、geo- と発音も意味も同じ漢字がある。それは「壌」と「堯(ぎょう)」とである。「壌」は「つち」と読み、天壌(=天地、あめつち)、土壌(=土地、つち)、壌土(=まつち、よいつち)。壌地(=土地、国土)、霄壌(しょうじょう)(=天地、あめつち)などの語がある。「堯」は中国の昔の聖天子とされた神話的人物であるが、「万物の母」たる「大地」(Gemeter)の徳を神格化したものだろう。ということは、「堯」が「土」を三つ重ねて兀(つくえ、祭壇)の上に祭った形からできていることからもうかがわれる。
(p.258)


posted by 石崎 陽一 at 18:31 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年06月22日

名詞 check の意味変化と意外な意味


a1380_000748.jpg



check という語は、(将棋の「王手」にあたる)チェス用語として

ほとんどすべてのヨーロッパ諸語に入っていますが、

英語では

king in danger ➔ defeat, stoppage ➔ a try to defeat ➔ a test ➔ verification ➔ counterfoil ➔ cheque

と意味が変化しました。

そして、a try to defeat の語義からは

「阻止、抑制」

の意味が出まして

● give a check to something
 (何々を阻止する)

● a check to an action [a movement]
 (ある行動[運動]に対する抑制)

● keep the competitive company in check
 (競合会社を阻止する)

● keep inflation in check
 (インフレを抑制する)

● get one's cholesterol levels in check
 (コレステロール値を抑制する)


のように使われています。

また、具体的な「障害物、抑制要素」の意味でも用いられます。

● come to a check(障害物にぶつかる)


意外ですね。


ちなみに、「市松模様」の check, chequer は chess board が原義です。


(追記1)

本記事の執筆に際し、中島文雄・寺沢芳雄 編『研究社英語語源小事典〔デスク版〕』(研究社、1970年、p.77)を参照しました。

(追記2)

CROWN PLUS(level 3)の第11課には these checks−disease, famine, accidents, war etc.− という表現が登場しますが、これは「マルサス的抑制」(ピーター・レイビー 著・長澤純夫・大曾根静香 訳『博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスの生涯』(新思索社、2007年、p.377)を指しています。


posted by 石崎 陽一 at 17:07 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年06月18日

azure の蒼さについて


lapis-lazuli.jpg
(ラピスラズリ)



新約聖書(ウルガタ訳)の sapphirus というラテン語は邦語文語訳では「瑠璃」と訳されていますが、

口語訳では「サファイア」と訳されています。

「瑠璃」とは「青金石(せいきんせき)」(lapis lazuli)のことであり、

「サファイア(青玉)」(sapphire)とは以て非なるものです。

この事実はどう理解されるべきなのでしょうか。

この疑問に対して語源的な解答を与えようと、

ラピスラズリとサファイアの関係について考察するなかで、

azure という語の蒼さについて知ることがありました。

今回のエントリーではそのことに関して記したいと思います。



Sapphire.jpg
(サファイア)



まず、調査結果から先に述べますと、「瑠璃」「青金石」を指す語は元来 sapphire だったようです。

12月の誕生石の名称 lapis lazuli と9月の誕生石の名称 sapphire とが

元は同一物を指して使われていたらしいというのは興味深いことに思えます。

研究社『英語語源辞典』によると、元来、sapphire の語源である sáppheiros というギリシャ語が現在「瑠璃」「青金石」とされる宝石を表しており、

現在「サファイア(青玉)」とされる貴石は huákinthos というギリシャ語で表わされていました。

(この huákinthos は現代英語 hyacinth の語源になっています。)

ところが、「瑠璃」「青金石」にあたるヘブライ語の sappīr をギリシャ語に訳す際にズレが生じ、

sáppheiros が「サファイア(青玉)」を表すようになったといいます。

したがって、sáppheiros というギリシャ語のラテン語形 sapphirus を邦語文語訳で「瑠璃」とするのは語源的に正確な訳であると言わなければなりません。

(同時に、各種英和辞典で現代英語の sapphire に「瑠璃色」の訳が与えてあるのも語源的に甚だ正確であると言うことができます。)



hiyasinsu.jpg
(ヒアシンス)



では、次に現在「瑠璃」「青金石」の意を表す lapis lazuli を語学的に眺めてみましょう。

前半要素の lapis は「石」の意味で、現代英語では宝石や鉱物のラテン語名に用いられる語です。

後半要素の lazuli は「青金石」の意のラテン語の名詞 lazulum の属格形で、「青金石という」という意味です。

したがって、この句は厳密に直訳すれば、「青金石という石」である。

「青金石」とは主にアフガニスタン東北部に産出する準宝石(semiprecious stone)です。

その蒼さゆえに古くから装飾品や顔料、岩絵の具等として珍重され、古代メソポタミア文明でも多く用いられたとされます。

日本へも恐らくシルク・ロードを経て渡来して「瑠璃」と呼ばれ、仏教の経典では極楽浄土を飾る7つの宝石、七宝の一つとされています。

この美しい「青金石」をアラブ人は allāzawárd と呼びました。

al- はアラビア語の定冠詞、lāzawárd は英語の blue にあたるペルシャ語 lāzhward, lājward に由来する語ですから、

allāzawárd とは語源的に、the blue、つまり「蒼い物」という意味でありました。

アラブ人にとって、青金石は蒼さの象徴だったようです。

lazulum というラテン語はこのアラビア語 lāzawárd から来ています。

ちなみに、この「蒼い物」すなわち「青金石」を指して使われたアラビア語 al-lāzawárd がal(l)-azaward と異分析(metanalysis)された結果、

中世ラテン語(600-1500年頃のラテン語)に入り azura、それが古フランス語(800-1550年頃のフランス語)に入り azur という語形に変化、

これが中英語(1100-1500年頃の英語)に入って現代英語では azure となったと語源辞典は教えます。

中英語時代に「青色、空色;青金石」という名詞用法から転じて「青色の、空色の;青空のような、曇りのない、清く澄んだ」と形容詞としても用いられるようになり、

現代英語でもこれらの意味で使われています。


azure の表す青さは lapis lazuli の青さなのでした。



azure.jpg



(追記1)

sapphirus という語は聖書の結びとなっているヨハネの「黙示録」(Revelation)において見られます(第21章第19節)。


(追記2)

「瑠璃」「青金石」を指す語は元来 sapphire だったようだとする記述については、

例えば、通称 Webster 第2版の ‘lapis lazuli’ の項には “Lapis lazuli is probably the sapphire of the ancients.” とあります。

収録語数において OED をしのぎ当時世界最大であったこの Webster 第2版は、

このような個所に「言葉の辞書であると同時にことがらの事典」(佐藤弘『英語辞書の知識』八潮出版社、1977年、p.130)という編集方針が顕著に具現していると言えます。

Webster 第2版は1934年の出版だが、未だ「古本市場でも高い人気を誇っている」(土家典生・今里智晃『英語の辞書と語源』東京、大修館、1991年、p.95)というのも大いにうなずける気がします。


(追記3)

lapis lazuli の主要素は lazurite と呼ばれる濃青色の鉱石です。

その色から lapis lazuli blue と言えば(またはlapis lazuli 単独でも)「群青色、瑠璃色」の意味を表します。

なお、1字違いの lazulite は天藍(らん)石、青リン鉱を指します。

ちなみに、azure stone という表現は lapis lazuli と lazulite のいずれをも指します。

また、語源的な関係を有する azurite は「藍銅鉱」、そして藍銅鉱から作る青色の半宝石、アジュライトを指します。


(追記4)

「青金石」の意のヘブライ語 sappīr はさらにサンスクリット語の sanipriya に遡るとされます。

sani- は惑星としての Saturn の意味、-priya は dear の意味で、

全体として「土星に対して親愛なる(もの)(dear to Saturn)」という意味です。

青金石と土星の間にどのような関係があるのか、今後追跡調査を行いたいと思います。


(追記5)

lapis とその複数形 lapides から派生した英単語も多いです。

lapicide(石工), lapidarist(宝石通), lapidary(宝石(細工)の、石に刻んだ、碑文体の), lapidate(石を投げつけて殺す), lapidescent(石のような、石碑に似た), lapidicolous(石の下に生活する、石層棲の), lapidify(石に変える、石化させる), lapidist(宝石細工人、宝石通), lapillus((通例複数形 lapili で)ラピリ、火山礫(れき))など。


(追記6)

lazuli は第2曲用に属する中性名詞。

英語に入った類例としては「キリスト紀元で、西暦」を表す ‘anno Domini’ 等があります。

ここで anno は annus ‘year’ の奪格形、Domini は dominus ‘master’ を固有名詞として用いたその属格形、したがって英語に直訳すれば ‘in the year of the Lord’ です。


(追記7)

lapis lazuli という句において、lapis と lazuli はいわゆる「同格の属格(genitive of apposition)」で、関係する名詞と意味的に並列している例です。

風間喜代三『ラテン語とギリシャ語』(東京、三省堂、1998年、p.81)によれば、類例に urbes Romae(ローマという町)等があります。

日本語の「富士の山」等もその例でしょうか。


(追記8)

本記事執筆のために閲覧した国内の lapis lazuli 関連のウェブ・サイトの全てが(もちろん気づかない見落としはあるでしょうが)この準宝石の原義を「lapis は石を、lazuli は青をそれぞれ表すので青い石」であるとしていました。

これは恐らく、英和辞典の lapis lazuli の項の語源欄に [L lazuli azure] といった記載があるのを誤読したことに起因するものと思われます。

しかし、本論でも述べましたように、azure は元来「青金石」の意味で使われ出したのです。

azure の項に「古語」として lapis lazuli の語義を挙げている英和辞典も多いです。

また、このことは名詞としての用例と形容詞としての用例の文献への初出年代からも窺い知ることができます。

さらに、lazuli に lapis lazuli の意味があることからも決定的だと言うことができます。

その点、海外のサイトには [ML lazulum, lapis lazuli] と正確な記述がありました。


(追記9)

青金石の粉末は青色顔料として用いられ、ウルトラマリン(ultramarine)と呼ばれています。

ultramarine はイタリア語ないしラテン語からの借入語で「海の彼方からの(beyond the seas)」が原義であり、

当時 lapis lazuli が海外からの輸入品であったことを雄弁に物語っています。

さしずめ「舶来品」といった感じでしょうか。


(追記10)

ラピスラズリの産地であるアフガニスタンのバダクシャン(Badakhshan)地区からメソポタミア・エジプトへ通じる道、すなわちシルク・ロードの西半分は、別名ラピスラズリ・ロードと呼ばれていました。


(追記11)

「仏教の経典では極楽浄土を飾る7つの宝石、七宝の一つとされている」という記述は、研究社『大英和』第5版 'lapis lazuli' の項、及び CD-ROM 版 Microsoft Encarta 97 Encyclopedia の「ラピスラズリ」の項に全面的に依拠しています。

なお、残りの6つは金・銀・珊瑚・玻璃(はり)・瑪瑙(めのう)・真珠です。


(追記12)

al- は本来アラビア語の定冠詞で、現代英語ではスペイン語・ポルトガル語から借用された名詞の一部となっています。

他に alchemy, alcohol, Aldebaran, algebra, algorithm, alkari, almanac, Allar, Altair 等の例があります。

スペインの Alhambra 宮殿は the red(castle)が原義。

1988年頃に故オサマ・ビンラーディンが設立したテロ組織 Al-Qaeda(アル・カーイダ)は the base が原義で、構成メンバーの個人情報を記録したデータベースに由来する命名だといいます。

ドーハにあり「中東のCNN」と呼ばれているカタールの衛星テレビ局アル・ジャジーラ(Al Jazeera)は「半島」が原義。

ちなみに、北アフリカのアルジェリア(Algeria)という国名も Al Djazair から来ており「島々」が原義。


(追記13)

allāzawárd に関する記述は研究社『英語語源辞典』の ‘azure’ の項に全面的に依拠しています。


(追記14)

異分析(metanalysis)とは要するに切り方の勘違いのことです。

多くの語が続けて発音されるのを聞くと、特に外国人や小児には語の切れ目がどこにあるのかわからないため、本来の語の切れ目と違ったところで語を切ってしまうことが起こりますが、

そうした現象を指す言語学の用語です。

類例は多く、例えば apron は約700年前フランス語から英語に入ってきたときの語形は napron でした。

(これは napkin の語源になっています。)

ところが、これに不定冠詞がついた a napron が発音の際に融合してしまい、次第に an apron と本来とは違ったところで分割されるようになり、

約500年前の英語では apron という語形ができたようです。

他にも newt, nickname, umpire などの例があります。

「ここではきものをぬいでください」という注意書きを見て履き物ではなく着物を脱いだら日本語の異分析になります。


(追記15)

中世ラテン語形 azura からもいくつかの語が派生しています。

現代英語の俗語で azul と言えば「警察、サツ」のことを指します。

これはスペイン語由来ですが、制服の色からの命名(?)でしょう。

また、同じスペイン語由来の語で azulejo と言えば「(ブルーの)カラータイル」のことを指します。

「アズレン(azulene)」と言えば青色の炭化水素のことです。


(追記16)

東京港竹芝埠頭に隣接するホテルアジュール竹芝は、広告によると、「東京一の『青』を贅沢に楽し」めるホテルということで命名されたといいます。


(追記17)

記事の終わりのほうの記述は研究社『英語語源辞典』は ‘azure’ の項に全面的に依拠しています。

なお、各言語の年代区分についても同語源辞典に従いました。


(追記18)

東浦義雄・船戸英夫・成田成寿『英語世界の俗信・迷信』(大修館書店、1974年、p.128)より引きます。

青色も悪霊に嫌がられるので、サファイヤは魔除けに用いられ、十三世紀においてローマ教皇の回勅で、主教はこの石の指輪をはめるよう命じられた。この粉末をいれたミルクはリューマチとはれものに特効あり、とされた。


(追記19)

フランスの有名な観光地 Côte d'Azur(コート・ダジュール)に見られる azur は azure に相当するフランス語。「紺碧海岸」と訳されています。

Côte d'Azur.jpg
(retrieved from:http://urx.nu/8Dzp



posted by 石崎 陽一 at 02:44 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年06月09日

O'Henry という人名の語源


a0940_000453.jpg



O'Henry は O'- + Henry と分けられます。

O'- はアイルランド系の父称(patronymic)です。

Henry は現代ドイツ語の Heinrich と同源で “home ruller” の意。

よって、 O'Henry とは「家長の息子」が原義でした。


(追記1)

本記事の執筆に際し、『英語固有名詞語源辞典』(研究社、2011年)を参照しました。


(追記2)

『上掲書』(p.126)によれば、Harry の文献上の初出は1270年であり、Henry の当時の発音による転訛で、フランス語の発音の影響であるとされています。


posted by 石崎 陽一 at 10:48 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

Tennyson という人名の語源


a1170_000194.jpg



Tennyson と言えば、石崎は英国の桂冠詩人 Alfred Tennyson(1856-85)を思い出します。

この Tennyson という姓は、元来は Dennis + -son でした。

-son はスカンディナビア系の父称(patronymic)です。

よって、Tennyson とは「Dennis 氏の息子」が原義でした。

なお、太田垣正義『英語の語源』(創元社、1978年、p.93)によれば、

Dennis は一説によると、le Danois(デーン人)に由来するとされます。


(追記)

本記事の執筆に際し、上掲書の他、『英語固有名詞語源辞典』(研究社、2011年)を参照しました。


posted by 石崎 陽一 at 10:46 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする
ページトップへ戻る