2013年12月03日

クリスマスにちなんだ語(その3)



人間はものぐさにできている動物です。

上品に解釈すれば経済観念が発達しているとも言えます。

日本語でもスマートフォンを縮めてスマホ、就職活動を略してシューカツなどと言いますが、

英語にも頭文字だけを取って縮めた短縮語がたくさんあります。



UFO.jpg



日本語としてもよく使う ID カードの ID は、identification(身元確認、身分証明)を縮めたもの。

これを動詞にすると identify(身元を確認する)になります。

よって、身元を確認できない飛行物体は unidentified flying object であり、

頭文字をとって切り詰め UFO と呼んでいますね。

(ですから、身元が確認できた段階で IFO になる由。)

原語を長たらしく呼ぶよりもはるかに意味が伝達しやすいわけです。

同じように、Christmas の略語は Xmas です。



xmas_hat.jpg



ギリシャ語でキリストとは Khristós と言い、the Anointed One(油そそがれし者)の意です。

ユダヤでは油を頭にそそぐのは王者の印だったのですね。

Khristós の略字である K が英語の X に当たるので、X で Christ に代用しました。

したがって、X'mas とアポストロフィを入れるのは誤用ということになります。

また、Xmas は [éksməs] ではなくて、やはり[krísməs] と呼ぶのが正しいのです。


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2013年12月02日

クリスマスにちなんだ語(その2)


michaelmas.jpg



前回は Christmas を取り上げましたが、

同じ -mas の仲間に Michaelmas といって9月29日のミカエル祭があります。

Michael はヘブル語で、‘who is like god’(神の如きもの)という意味を持つ「天使長」です。

先の Christmas とともに、発音の上で似た変化が見られます。

Christ [kraist] が -mas に先行すると [t] 音を脱した上に短母音となって [krísməs] となるのと同様に、

Michael [máikl] という天使の長母音が変化して [míklməs] となります。

ちなみに、イギリスでは土地・家屋の貸借料を支払う日が年に4回あって、それを quarter day(四季支払い日、節季)と称えるのですが、

ミカエル祭とクリスマスはそれに当たっています。


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2013年12月01日

vocable から vocabulary へ



vocabulary は綴りが難しい単語ですが、

vocable + -ary

という造りに着目すると覚えやすくはなりますまいか。



vocabulary.jpg



vocable は voice + -able という造りからわかるように、

「発声可能な、発音可能な」という意味のほか、

意味に関係なく音の組み合わせとして見た場合の

「単語、(単語の)音」

を表す語です。

この vocable(単語)に「何々の置き場」を表す語尾の -ary が付くと

vocabulary となります。

diction(語)から dictionary(辞書)が

formula(公式)から formulary(公式集)が

それぞれ生まれたのと同じですね。

vocabulary の方は

「単語集、辞書」

という語義から、

一個人、著書、ある階級の人などの有する

「語彙(の総数)」

を意味するようになりました。

なお、vocabular と言えば「語の、言葉の」の意です。


(追記1)

vocable ➔ vocabular, vocabulary

の語形変化の理解には

angle(角)➔ angular(角の)
muscle(筋肉)➔ muscular(筋肉の)
single(単一、一個)➔ singular(単一の、個別の)

など類似の語形変化の様子が参考になります。


(追記2)

辞書の由来について、佐々木達『英学断想』(三省堂、1979年、pp.209-10)より引きます。

西欧での辞書の起原の一つは「グロサリー」(gossary, 集注)である。これは文字通り「注を集めたもの」である。その昔、紀元七世紀のヨーロッパでは、ラテン語が唯一の学問語 −つまり学問的知識を書き記すことば− であった。だから、その書き物を読むためには、どうしてもラテン語を知らなければならない。ところが研究する人たちは、伊・仏・西・英など諸国にわたっていたから、当時すでに死語になっていたラテン語に熟達しているわけではない。おそらくそれを読むために四苦八苦したであろう。(後略)

だからラテン語の原典を読む者は、むずかしい語句が出てくると、その意味をやさしいラテン語や自分の国の言葉で、行間や欄外に書き込むことにしていた。(中略)この書き込みを「グロス」(gloss, 注)と言い、それを集めたものがグロサリーなのである。

もう一つの起りは「ヴォキャブラリー」(vocabulary, 語集)というもので、ラテン語の学習者が記憶に便利なように、単語を意味の類似によって分類し、それを集めたものである。これは日本の中高生の単語帳に似ているが、「シソーラス」(thesaurus, 類語辞典)の特徴を加味したと言ったほうがいい。が、このヴォキャブラリーは結局グロサリーに吸収されてしまった。

そこで話をグロサリーに戻そう。グロサリーは一冊の原典についてそれぞれ作られたのが始まりである。が、別々に作られたものを一か所に集めて、多くの原典がそれを頼りに読めるように、という極めて自然な欲求が生れた。これが後の本格的な辞書のそもそもの起りである。現在でもグロサリーという言葉は、中世の名残りを留めて「難語辞典」という意味に使われている。



posted by 石崎 陽一 at 17:19 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

クリスマスにちなんだ語(その1)



今月は12月。

12月はクリスマスの月と言われますので、クリスマスにちなんだ単語を調べてみましょう。



christmas.jpg



「基督降臨祭」と書くよりは「クリスマス」のほうが私たちに親しみを感じさせます。

Christ は「キリスト」ですから、それならば mas は「降臨祭」かと思いますが、さに非ず。

Christmas は Christ's mass が縮まった語で、mass はキリスト教の旧教で称える「ミサ」のこと。

聖餐式(Communion)またはその祭典を指しています。

したがって、クリスマスはキリストのための最も大切な祭典である、誕生祝いの祭典を意味しているのですね。

なお、mass はラテン語の missa に由来していますが、missa は to send の意の動詞から派生した名詞。

よって、mission とは sending または delegation の意。

すなわち「派遣、使節、伝道、布教」などの意味になることも併せ考えることができます。


(追記1)

アメリカでは最近、さまざまな宗教に配慮し、

公の場では Merry Christmas! ではなく Happy Holidays! と言うことがあります。

クリスマスカードの文面も、そう印刷されているものが多いです。

「クリスマスツリー」を「ホリデーツリー」と呼ぶこともあります。

ちなみに、クリスマスの色は赤と緑で、青と白はハヌカの色ですね。


(追記2)

キリスト教では、本来、1月6日の顕現節(公現祭)までがクリスマスのお祝いなので、それまで飾りは外しません。25日のクリスマスから12日目にあたる1月6日の夜が十二夜です。シェイクスピア最高の喜劇のタイトルにもなっています。もっとも、劇中には十二夜の祝宴に関わるような言及はないのですが。


(追記3)

The Twelve Days of Christmas という有名な歌があり、12月25日から1月6日までを指します。だんだんプレゼントが増えて歌詞が長くなっていくのが楽しい歌です。




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2013年11月30日

an eye-opener for me



一つ一つの語の歴史をたどってその源をたずね、

各々の単語がどういう風にしてでき上がったかをみる。

私にこうした語源の目を開かせてくださった先生がお二人いらっしゃいます。

いずれも高校時代の国語と英語の先生です。



ほたる.jpg



国語の先生には『大言海』の存在と使い方を教えていただきました。

中古文や擬古文を勉強する際には自然と『大言海』を引かざるを得なくなりました。

「ほたるは火垂(ホタリ)の転、或云火照(ホテリ)の転」

など初めて知ったときの喜びを今でも忘れません。



たんぽぽ.jpg



英語の先生は、例えば dandelion がタンポポであることを語源的に教えてくださった先生です。

dandelion < Fr. dent de lion (lion's tooth)

という具合に習いました。

これを説明すれば、

<という記号は語源を記した場合には必ず使われる記号で、右の語から左の語が出たことを示しています。

左の語が源で右の語に変わったのであれば>と記号を変えます。

dan は英語では dentist(歯医者)などの語に用いられて「歯」のこと。

フランス語の de は英語の of にあたる。

lion は動物のライオンのこと。

すなわち、「タンポポの葉」がギザギザして「ライオンの歯」に似ていることから生じた語だというのです。

この先生から紹介されて読んだのが

渡部昇一『英語の語源』(講談社現代新書、1977年)

でした。

そして大学ではこのような先生の下で学んでみたい、というのが念願になったのでした。


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2013年10月03日

膵臓と生肉の話


flower (36).jpg



膵臓(すいぞう)は胃の後方にあり、脂肪を消化する膵液を分泌します。

この舌状の消化腺は英語で pancreas と言います。

pancreas はギリシャ語の pan-(すべて)+ kreas(生肉)という造りで、

膵臓を肉塊ととらえての名づけですね。

ちなみに、小川鼎三『医学用語の起り』(東京書籍、1983年、p.34)によると、

膵という字は国産で、萃(すべて)+月(にくづき)からなるそうです。

1805年に大槻玄沢の弟子で蘭方医の宇田川玄真が造り初めて使用したとのことですが、

語源に忠実な造語であると言えましょう。


なお、kreas(生肉)に関連のある英語としては creatine(クレアチン)がありますが、

骨格筋という筋肉のなかに見いだされたことに由来するのでしょうね。

語頭にくる関連形は cre(o)- で、creophagism(肉食主義), creophagous(肉食性の)などの語が出ています。



flower (32).jpg



ギリシャ・ローマ時代、肉と霊とは対の概念をなしており、

肉はギリシャ語では sarx ともいい、霊(pneuma)に対する意味で用いられました。

sarcoma(肉腫)はここから出た語です。

ラテン語では肉は carō といい、霊は spiritus といいます。

carō からは carnal(肉体的な、肉欲的な), carnival(謝肉祭), carnivorous(肉食性の)などが出ています。



flower (23).jpg



肉がらみで言うと、

英語の muscle(筋肉)はラテン語の musculus,

すなわち mus(はつかねずみ)+ -culus(指小辞)からなり、

「小ねずみ」が原義。

hatsukanezumi_photo.jpg力を入れて腕を曲げると、皮下の筋肉の収縮するのが、ねずみの動くように見えることに由来すると言われています。

筋肉はギリシャ語では mys といい、やはり「はつかねずみ」のことです。

この語から myoma(筋腫), myositis(筋炎)などの語が出ています。


(追記)

本記事の執筆に際し、以下の文献を参照しました。

『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)
小川鼎三『医学用語の起り』(東京書籍、1983年)


posted by 石崎 陽一 at 21:16 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年09月29日

動きを表す語根 cise


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手頃な大きさの辞典にコンサイス(concise)という名称がよく使われています。

この concise は語根の cise が「切る、切断する」の意で、

語頭の con- は「徹底的に」と後続要素の意味を強める接頭辞ですから、

「不要な部分を徹底的に切り取って簡素にした」が原義です。

ここから言葉や文体が「簡潔な、簡明な」の意味が出ました。

a concise explanation
(簡潔な説明)

write a concise summary of the meeting
(その会議の簡潔な要約を書く)



このように、cise は「切る」という動きを表す語根です。

この語根から生じて結んだ実に excise, incise, circumcise があります。



flower (38).jpg



excise は ex-(外へ)+cise(切る)という造りで、

「切り出す、くりぬく」が原義。

ここから「切り取る、切除する」の意味が出ています。

excise a tumor from the patient's stomach
(患者の胃から腫瘍を切除する)



incise は in-(中に)+cise(切る)という造りで、

何かに「切り込みを入れる」、何かを「切開する」の意味が出ました。

The surgeon was able to incise the abscess and drain it of pus.
(外科医は膿瘍を切開し、そこから膿を排出することができた。)



circumcise は circum-(環状に)+cise(切る)という造りで、

文字どおり「環状に切る」が原義。

ここから「輪切する、割礼を行う」という意味を持つに至りました。

be circumcised at birth
(出生時に割礼される)



ちなみに、scissors(はさみ)も同源です。

はさみの本来の用途は切断することですもんね。

なお、「切る、切断する」を意味する下線部を含む語に abscise があります。

これは植物学の専門用語で、葉などが「離脱する」の意です。


(追記1)

本記事の執筆に際し、『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)を参照しました。

(追記2)

precise はどうにも語源的な説明を付しにくい語ですね…。


posted by 石崎 陽一 at 20:05 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

カルボナーラと木炭


flower (34).jpg



生物を構成している元素に炭素があります。

炭素は化学記号で C と記しますが、これは carbon の頭文字です。

carbon はラテン語で「木炭、炭」を表す carbō に由来します。

ベーコン、卵黄、チーズ、黒胡椒などを混ぜたソースで和えたカルボナーラというスパゲッティがありますが、

実はこの carbonara という語も同源です。

黒胡椒が散らされているのが炭の粒に見えることからの名称と言います。


意外ですね。


(追記)

本記事の執筆に際し、以下の文献を参照しました。

『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)
『明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店、2010年)


posted by 石崎 陽一 at 19:15 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

envelop と develop は対語


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envelop と develop は対語をなしていますが、

この2語に共通する velop の部分は「包む」を意味します。


envelop は en- + velop (包む)という造りで、

en- は in- に由来し「中に」の意を表しますから、

「中に包む、包みの中に入れる」が原義。

ここから envelop は「包む、おおう、囲む;隠す;包囲する」の意味の動詞に用いられます。

The festive atmosphere enveloped the town.
(お祭り気分が町を包みました)


名詞で使うと「包み、封筒」の意味でお馴染みですよね。



flower (20).jpg



一方、develop は de- + velop (包む)という造りで、

de- は dis- に由来し後続要素の表す意味の反対を表します。

(たとえば、honest に対して dishonest と言うのを想起すればよいでしょう。)

よって、develop は「包む」という行為の反対の行為を表します。

すなわち、「包みをほどく」(unwrap)が原義です。

包み込まずに広がるのですから「発展する」の意味が出たのですね。

また、「包みをほどく」が原義ですから

develop に「明らかにする」の意味があったり、

この「明らかにする」の語義から

写真を「現像する」の意味があったりするのも頷けるのではないでしょうか。


(追記)

本記事の執筆に際し、『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)を参照しました。


posted by 石崎 陽一 at 18:36 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年09月16日

助動詞 will の語源


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助動詞 will は古英語 willan に由来します。

古英語 willan は「欲する、望む」の意。

意欲や意志が強くなると「やろう」という積極的な「意図」や「決心」が生じ、

willingly にする事柄は反復しがちですので「習慣」を表すようになりました。

古英語では未来を表すのに現在形を転用するのがふつうでしたので、will が未来の助動詞として用いられるのはかなりのちになってのことです。


(追記1)

関連記事(will の否定の短縮形が won't である理由)はこちらをクリック


(追記2)

本記事の執筆に際し、『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)を参照しました。


posted by 石崎 陽一 at 15:00 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

助動詞 can の語源


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助動詞 can は古英語 cunnan に由来します。

古英語 cunnan は to know (how to)の意の動詞。

何かのやり方を知っているということはそれをやることができるということから「これこれできる」の意味が出て一般的に「能力」を表すようになりました。

本来、古英語 cunnan は多くの場合他動詞として目的語をとりましたが、

不定詞を目的語にすることもあり、やがてこの用法が支配的になって、今日におけるような助動詞として確立したのですね。


(追記1)

現代英語 cunning のもとの意味は knowing でした。それが悪知恵のある場合だけに用いられ出したのですね。


(追記2)

過去形の could はもと coude で ‘l’ がなかったのでしたが、中英語期に should, would 等の類推から入りました。

coude は古英語 cunnan の過去形 cūþe から来ており、uncouth(野暮な、気の利かない、下品な)という語が could の古い形を残しています。uncouth は「ものを知らない」が原義でした。


(追記3)

中野清治『英語の法助動詞』(開拓社、2014年、p.44)より引きます。

may は古風な英語では can の意味で用いられ、その名残が諺や、聖書由来の慣用句にみられる。may はもともと「能力」を表していたが、「能力」と「可能」は意味的には紙一重であり、他者の能力を認めるところから「容認」や「許可」、さらには発展して「譲歩」の意味が派生することは容易に推測できる。


(追記4)

本記事の執筆に際し、以下の文献を参照しました。

『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)
小野茂『英語法助動詞の発達』(研究社、1969年)
大塚高信『英文法新講−表現の立場より見たる−』(吾妻書房、1952年)


(追記5)

『渡部昇一小論集成』(大修館書店、2001年)所収の書評「E. スタンドップ『古英語「話法の助動詞」研究』」より引きます。

助動詞とはそもそもラテン語を規範としてラテン語では語尾変化で示すところを分析的に示すゆえにできた名称である(p.141)

どの助動詞の背後にもそれが動詞として用いられた時の意味が潜在しているわけだが、古英語が特徴的なのはまさにこの点においてである。古英語はちょうど、この元来の意味の交代がはじまり出した時期にあたるからである。古英語では今日の可能の助動詞 can が、まだ元来の意味である「知る」という動詞として用いられて居る場合が圧倒的に多いというのもその一例である。(p.142)


posted by 石崎 陽一 at 14:46 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

助動詞 ought の語源


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現代英語の法助動詞 ought と本動詞 owe は意味・用法ともに一見したところ無関係であるように思われるかもしれません。

両語ともに「所有する」の原義から遠く離れた意味を有していますし、

用法でも、ought が通例 to 不定詞を伴って duty or obligation の意を表す不変化の法助動詞となっているのに対し、owe は新たな過去形 owed を持つ弱変化動詞となっているからですね。

しかし、歴史を遡れば、ought と owe は、同一の動詞の過去形と現在形なのです。

−−−

助動詞 ought は古英語 āhte に由来します。

古英語 āhte は動詞 āgan(現代英語の owe)の過去形です。

動詞 āgan(現代英語の owe)はもともと

to have, to possess

の意味だったのが、

“I have to go” の場合のように義務の意味に変わりました。

中英語において

to possess obligation, to have as a duty

の意となったのです。

さて、上述のように ought は古英語の動詞 āgan(現代英語の owe)の過去形であり、その原義は owed であるはずですが、

いまでは

to possess obligation, to have as a duty

の意味で、完全に現在の助動詞になってしまっています。

こうした現在用法の過去形については、could や would, might などを、丁寧に言う場合、現在の意味に使うことから考え得ることですね。

なお、現在では ought の後には to 不定詞がきますが、古くは原形不定詞を伴うこともあったようです。


(追記1)

助動詞 ought は古英語 āgan の過去形 āhte が語源です。

つまり、ought はもともと過去形なのですから、ought に過去形がないのも頷けますね。

この点 must と同じです。


(追記2)

現代英語 owe(古英語の āgan)のもとの意味は to possess です。

よって、その過去分詞 āgen は possessed に相当します。

これが現代英語の形容詞 own の語源です。

my own book とは my possessed book のことですよね。

この形容詞 own が動詞に変わり to own となりました。

ちなみに、現代ドイツ語で own に相当する形容詞は eigen ですが、古英語 āgen の名残を残していますね。

なお、小野茂『英語法助動詞の発達』(研究社、1969年、p.199)によると、to possess の意味で own が owe に取って代わったのは17世紀以来のことです。

その後、owe は to have to pay の意味に限られています。


(追記3)

中野清治『英語の法助動詞』(開拓社、2014年)より引きます。

社会的規律に基づく「客観的必要」や「道徳的義務」などから「そうすべき義務がある、そうするのが当然である」という話し手の判断を表し、文脈によっては忠告・勧告の意味にもなる。主語に課される「義務」の強さの度合いは、ほぼ should < ought to < have to < must である(中略)。(p.172)

イギリス系のある辞書の注記に、Should can be used in the same way as ought to and is more common, espacially in negatives and questions.(should は ought to と同じように用いられ、しかも一層よく用いられる、特に否定文と疑問文の場合に)とある。(p.174)


(追記4)

本記事の執筆に際し、以下の文献を参照しました。

『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)
小野茂『英語法助動詞の発達』(研究社、1969年)
大塚高信『英文法新講−表現の立場より見たる−』(吾妻書房、1952年)
田島松二『中英語の統語法と文体』(南雲堂、2016年)


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助動詞 must の語源


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助動詞 must は古英語の mōste に由来します。

古英語の mōste は to be allowed, to be in a position to do something の意味をもつ mōtan の過去形で、

You must not come in.

などの表現においてはこのもとの意味に使われています。

You are not allowed to come in.

ということですね。

過去形が今日現在の意味に使われていることは、could や would, might などを、丁寧に言う場合、現在の意味に使うことから考え得ることですね。

なお、must が現在形として用いられ出すにつれて意味が追々強まり、

to be bound or compelled to の意味で

You must be back by ten o'clock. Do you hear me!

などと、また inevitableness を表して

I must confess I don't know where Nevada lies.

などと、また certainty を表して

Mike left an hour ago. He must be home by now.

などと使うことができるようになりました。


(追記1)

上述のように、助動詞 must は古英語 mōtan の過去形 mōste が語源です。

must 自体がそもそも過去形だったのですから、must に過去形がないのも頷けますね。


(追記2)

本記事の執筆に際し、以下の文献を参照しました。

『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)
小野茂『英語法助動詞の発達』(研究社、1969年)
大塚高信『英文法新講−表現の立場より見たる−』(吾妻書房、1952年)


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助動詞 may の語源


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may は古英語の mæġ に由来します。

古英語の mæġ は現代英語で with might and main(全力を尽くして)というときの main に相当する語の動詞で

to be strong, to have power(力がある、権力がある)

の意。

許可・可能の意義はここから生まれています。

なお、古英語 mæġ の過去形は meahte であり、中世に mihte という変形ができましたが、これが現代英語 may の過去形 might の前身です。


(追記1)

with might and main(全力を尽くして)という句における might にも「力」の意味が残っています。つまり、might と main は同源語なのですね。Might is [makes] right.(勝てば官軍)や with all one's might(全力を尽くして)などに見られます。


(追記2)

本記事の執筆に際し、以下の文献を参照しました。

『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)
小野茂『英語法助動詞の発達』(研究社、1969年)
大塚高信『英文法新講−表現の立場より見たる−』(吾妻書房、1952年)


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2013年08月21日

ラテン語の名詞 arena(砂)にまつわる英語


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一見、難語に思える単語でも、それを構成している要素(接頭辞、接尾辞、連結形、語幹)に分析することにより、理解が容易になるケースが多いですね。

そして語源となるラテン語は、英語に直訳すると拍子抜けするくらい簡単な基本語であることがよくあります。

例えば、arenicolous という英語があります。

一見、格好がいかつくて身構えてしまいますが、

この語は連結母音 -i- をはさんで2つの要素に分けることができます。

前半要素はラテン語で「砂」を意味する arena です。

英語で言えば sand ですよね。めっちゃ基本語です。

(ちなみに、「闘技場、競技場;舞台」を意味する英語 arena も同根。古代ローマで円形劇場の中央部に砂を敷いたことに由来するそうです。)

また、後半要素の colous は「どこどこに住んでいる」を意味する連結形です。

-ous はその語が形容詞であることを示すサインでして、

col の部分がラテン語の動詞 colō に由来し「耕す、住む」を表すのですね。

英語で言えば live である。これも日常語彙です。

col は、実は、colony でおなじみの部分です。つまり、colony は「住処」が原義なのでした。

よって、以上から、arenicolus が「砂住性の、砂地に生育する」の意であることは明らかですね。


(追記1)

なお、ラテン語で「砂」を意味する arena から出た英単語には、他に、arenite(砂質岩、アルナイト),
arenose(砂を含む、砂質の(sandy))などがあります。

(追記2)

arenicolous の前半部においてラテン語で「岩」を意味する saxum を用いると saxicolous という語ができますが、saxicolous は「岩生の、岩石に生じる、岩石の間に生息する」の意です。

-colous という連結形を含む語は生態学の用語に多く、他に、cavoernicolous((動物が)洞窟に生息する), deserticolous(砂漠に生育(生息)する), lapidicolous(石の下に住む(習性の)), sanguicolous((寄生虫などが)血液中に寄生する), terricolouss(地上性の、地中性の), tubicolous((ミミズなどが)管生の)など多数あります。


(追記2)

本記事の執筆にあたり、以下の文献を参照しました。

『プログレッシブ英語逆引き辞典』(小学館、1999年)
『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)
『羅和辞典』(研究社、1966年)


posted by 石崎 陽一 at 20:33 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年08月19日

ラテン語の形容詞 aequus(等しい)にまつわる英語


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地図や地球儀を見ますと、赤道には赤い線が引いてありますね。

この赤道は南北を等分し、昼と夜の長さを等しくする軌道です。

よって、英語では equator(等しく分けるもの)と呼ばれています。

この equ- の部分はラテン語の形容詞 aequus に由来し、「等しい」の意です。

equal の equ- ですね。

この equ- を含む語に、他に、equivalent や adequate などがあります。

equivalent の語中の -val- という部分は value(価値)を表しますので

equivalent は「等しい(equ-)価値(val)のある(-ent)」ということから「等価な」の意。

adequate の語頭の ad- は「何かに対して」の意ですので、

adequate は何かの必要「に対して(ad-)匹敵(equ)するだけの(-ate)」ということから「相応な、適当な、十分な」の意が出ています。


ある統計によると、英語の語彙の半分はラテン語起源とされます。

語源となるラテン語を知れば、英単語の意味がよりよく理解できるし、

また、それだけでなく、英単語間の思わぬ関連性も見えてきます。

ラテン語と英語の結びつきを知ることで、英語をより深く理解することができるのですね。


(追記)

aequus の <ae> は二重母音でひとつの音節を形成します。


posted by 石崎 陽一 at 22:37 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

ラテン語の動詞 minuere(小さくする)にまつわる英語


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原形を一定の比率で縮小して書いた図を縮図(miniature)と言いますね。

短小なスカートはミニスカート(miniskirt)で、

数字の引き算をすれば答えは小さくなりますので、減法をマイナス(minus)と呼んでいます。

このように、min という語幹は「小さな、微小な」の意を表します。

minimum, minor なども関連語ですが、意外なものに minute があります。

minute は形容詞として用いますと「微小な、微細な」の意を伝えることができるのですね。

(発音も [maɪnjúːt] となります。)

他にも、diminish という語は di- の部分が de- の崩れた形で下降の意を表し

「縮小する」「減少する」などの意で使われます。

また、mince という語は「細かく刻む、微塵切りにする、挽肉にする」の意です。

(ちなみに、日本語のメンチ、ミンチは mince の訛りとされています。)


(追記)

なお、「分」を表す英語 minute は pars minūta prīma(最初に小さく分けられた部分)という句に由来します。

ちなみに、「秒」を表す英語 second は pars minūta secunda(次に小さく分けられた部分)という句から来ています。


posted by 石崎 陽一 at 22:18 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

ラテン語の名詞 nōmen(名前)にまつわる英語


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nickname(あだ名)や name broker(代返をする者)などに見られる name はドイツ語を先祖とする英語です。

name に相当するラテン語は nōmen で、この語にいくつかの英単語が由来しています。

nominate は「名前を呼ぶ」ことから代表者などに「指名する」「任命する」の意が出ています。

noun は名前は名前でも事物の名称である「名詞」の意で用いられていますね。

また、renown(名声、高名)という単語があります。

noun の u が w(double u)になってはいますが、-nown の部分は name と関連しています。

よって、renown は「繰り返し(re-)名前を言う」が原義。

評判がよく、繰り返し名前が人々の口にのぼるのは「名声」のある人であり、「高名」な方であります。


(追記)

なお、name を表す語幹はギリシャ語系では onym であり、anonymous, homonym, antonym, synonym などの語が出ています。


posted by 石崎 陽一 at 21:55 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

ラテン語の動詞 jacere(投げる)にまつわる英語


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ジェットエンジン(jet engine)は飛行機に搭載されている原動機のことで、

飛行機を前進させるために使われます。

大量のガスを噴射し、その反動で機体が飛んでいくわけです。

このように、jet はガスや液体の「噴出」を表すのですが、

原意は「投げる」なのです。


ラテン語で「投げる」にあたる動詞は jacere です。

この反復形は jactāre で、「何度も投げる」の意を表します。

これが jet(噴射)の語源となっています。

なお、jacere を語源に有する英語の動詞は多く、project, inject, reject, object をはじめ枚挙に暇がありません。

これらの語は pro-, in-, re-, ob- といった接頭辞が投げる方向を示しています。

project は「前へ(pro-)投げる」ことから映像などを「投影する」、ミサイルなどを「発射する」等の意が出ました。

また、「突き出す」という意味から計画などを「提示する、提案する」の意が出るのは自然ですね。

inject は「中へ(in-)投げ入れる」ことから薬品などを「注射する」の意を持ちます。

reject は「元へ(re-)投げ返す」ことからけんもほろろに「拒絶する」の意があります。

object は「何かに対して(ob-)投げる」わけですが、その「対象」の意が出ています。


posted by 石崎 陽一 at 21:39 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2013年08月11日

同一語源結合の法則


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unkind はよくて inkind は受容されず、insane はよくて unsane は受容されない。

semifinal はよくて hemifinal や half-final は受け入れられない。

また、foretell はよくて pretell は受容されず、symphony はよくて comphony は受け入れられない。

この点について、西川盛雄『英語接辞の魅力−語彙力を高める単語のメカニズム−』(開拓社、2013年、p.83)は次のように指摘しています。


英語は(中略)実にさまざまな言語の接触(衝突)・混交・変容によって今日に至っています。いわば本来語と外来語とのせめぎ合いです。本来語はアングロ・サクソン系の古英語・中英語・近代英語に連なるものです。外来語は主に古ノルド語、ギリシャ語、ラテン語、そしてノルマン・コンクェスト以降のノルマンのフランス語です。本来語である英語を基礎としながらも、これら外来語との交わりに際しては、基本的にでたらめな結合ではなく自ら一定の原則がはたらいていました。それが同一語源結合の法則です。複合語形成や接辞付与による派生語形成などにこれがみられます。


基本的に、同一語源以外のものとの結合ではいわば拒絶反応を起こすと考えられるということでしょう。


posted by 石崎 陽一 at 21:06 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする
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