2017年09月10日

ラテン語の名詞 gressus(=walk, step)にまつわる英語


progress.png
(retrieved from:https://goo.gl/Lt3vyk



医療の「進歩」「前進」などという場合の

「進歩」「前進」

を、英語では progress と言います。


この progress という語は

pro-(前)+ gress(進(み)、歩(み))

という造りでできています。

この「歩(み)、進(み)」を表す語幹 gress はラテン語の名詞 gressus(歩(み)、進(み))に由来します。


ラテン語の名詞 gressus(歩(み)、進(み))にまつわる語としては、他にも

ad-(〜に向かって)> ag- + gress

から

aggress(侵出する、侵略する、攻撃する)

という語が、


con-(共に)+ gress

から

congress([揃って行く]大会議、学術会議)

という語が、


dis-(離れて)> di- + gress

から

digress(横道にそれる)

という語が、

それぞれ生まれています。


今回は英語の名詞 walk, step にあたるラテン語の名詞 gressus(歩(み)、進(み))にまつわる英単語を紹介しました。


(追記)

上記の aggress(攻撃する)から

aggressive(攻撃的な)

が生まれています。


posted by 石崎 陽一 at 12:24 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

ラテン語の動詞 gradī(=to walk, step)にまつわる英語(その1)


grade.jpg
(retrieved from:https://goo.gl/JxCqVZ



前回の記事では英語の名詞 walk, step にあたるラテン語の名詞 gressus(歩(み)、進(み))にまつわる英単語を紹介しました。

今回は英語の動詞 to walk, step にあたるラテン語の動詞 gradī にまつわる英単語を紹介します。

grade(段(階)、(等)級、階級、学年、地位、程度、度(合)、傾斜度、勾配)

一歩一歩進む、段階を踏む、その「段階、程度」が原義です。

gradual(段階的な、(傾斜の)緩やかな)

grade(段階)+ -al(形容詞語尾)という造りです。

なお、副詞形 gradually は文字通り step by step、つまり「段々に、徐々に」の意。


gradual.png
(retrieved from:https://goo.gl/Ydxye9

gradation(グラデーション;段階的な変化)


絵画などで色や明るさなどを段階的に変化させること(技法)を「グラデーション」と呼んでいます。

ちなみに、gradation は

連続的な変化や推移、発展の「段階」

の意や、

序列や格差、強度などの「等級、度合」

の意、また、

温度計などの「目盛り」

の意も有しています。


gradation.png
(retrieved from:https://goo.gl/rgmvKV

graduate(卒業する)

学年を踏んで進んで行って「卒業する」の意。


graduation.png
(retrieved from:https://goo.gl/DwZEmL


なお、前述のように、基部である grade には「傾斜度」の意があります。関連して「傾斜度を測る」の原義から「目盛りを付ける」の意も出ており、その名詞形が graduator(分度器)です。

この線で graduation と言えば「(付けられた)目盛り」の意も表します。


centigrade(百分度の、摂氏の)

centi-(百分の一)+grade(度)という造り。「水の氷点と沸点の間を100等分した尺度の」の意です。

degrade(階級が下がる、退化する)

de-(下に)+grade(進む)という造りです。

retrograde(後退する)

retro-(後方)+grade(進む)という造りです。

degree(段階、(等)級、程度、[角度・温度などの]度)

grade の変形 gree に de-(下に)が付いた造りです。

よって、step down が原義で、古くは「階段の一段」を意味していました。

上記のように degree はいろいろな意味に用いられますが、

いずれも一つの段階とか階級を示す意味で、柔道や剣道の段などもみな degree です。


posted by 石崎 陽一 at 11:13 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

ラテン語の動詞 gradī(=to walk, step)、にまつわる英語(その2)


digitigrade_plantigrade.gif
(retrieved from:https://goo.gl/iBf9zU



前回は英語の動詞 to walk, step にあたるラテン語の動詞 gradī にまつわる英単語をいくつか紹介しましたが、
今回は科学英語、なかでも生物学の世界から、digitigrade と plantigrade の二つを紹介します。


digitigrade は犬、猫、馬など、かかとをつけずに足指で歩く「指行性の、趾行性の」の意。

趾行は「しこう」と読みます。

digiti- は「指、足指」(finger, toe)を表すラテン語 digitus の派生形。


plantigrade は熊、人など、地面に足の裏の全面をつけて歩く「蹠行性の;偏平足の」の意。

蹠行は「しょこう」と読みます。

planti- は「足の裏」(sole)を表すラテン語 planta の派生形。


posted by 石崎 陽一 at 11:04 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

英語とドイツ語の関係がわかる一例


Berg.png
(retrieved from:https://goo.gl/Re5DCe


「山」は英語では mountain ですが、ドイツ語では Berg と言います。

ところが、「氷」になると iceberg となり、

英語とドイツ語の関係が明らかになります。



iceberg.jpg
(retrieved from:https://goo.gl/tPpeY8


すなわち、ドイツ語でも Eisberg なのでして、

iceberg という現代英語の berg は hill(丘), barrow(塚)の意で、

ドイツ語の一方言だった時代の古い英語が残存しているのですね。



barrow.jpg
(retrieved from:https://goo.gl/CPjPzy


なお、「山」を表すドイツ語 Berg は「城」を表すドイツ語 Burg とも同根で、

ともに「高い」を表す印欧語根 *bhergh-(高い)に遡るとされます。

本エントリーに掲げた複数枚の写真から聳え立つイメージの共通性が看取されましたでしょうか。



Burg.jpg
(retrieved from:https://goo.gl/SgBJv1


(追記1)

参考文献はこちら。

● 『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1999年、p.683)
● 下宮忠雄『ドイツ語語源小辞典』(同学社、1993年、pp.14-5)


(追記2)

関連記事はこちら。

英語の語彙を構成する本来語と借用語の比率について


posted by 石崎 陽一 at 10:23 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2017年03月16日

pasta と paste



発音がまるで違うために同じ語源だと気づかない単語のセットがたまにあります。


たとえば、pasta と paste もそのようなペアです。



pasta.jpg
(retrieved from: https://goo.gl/fgtW3T



pasta(パスタ)はイタリア料理に使う麺類の総称です。


スパゲッティ・ペンネ・マカロニ・ラビオリ・ラザニアなど種類が豊富ですけれども、

小麦粉の練り物という共通点があります。



paste.jpg
(retrieved from: https://goo.gl/8HcjNm



一方、paste(ペースト)は粉状のものを練り上げたり、肉や内臓、野菜などを煮てすりつぶし、のり状に練ったりして作った食品を指す語です。


paste と pasta はどちらもギリシャ語で大麦のポリッジ(barley porridge)を意味する pastá に由来しますが、

いずれも「結果」に着目した語であると言うことができるでしょう。


(なお、ポリッジ(porridge)とは、大麦やオートミールを水やミルクで煮て作るお粥です。)



Barley-porridge.jpg
(retrieved from: https://goo.gl/FgqIBT


(追記1)

レバーなどに香辛料を加えてペースト状にしたパテ(pâté)や、焼き菓子の総称として用いるペーストリー(pastry)も同語源です。


(追記2)

本記事の執筆にあたり、以下の文献を参照しました。

『明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店、2010年)
『旺文社 詳解国語辞典』(旺文社、1985年)
『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1999年)


posted by 石崎 陽一 at 21:36 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2016年07月17日

英語は野生のままに育ってきた樹木ではない


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G.H.McKnight & B.Emsley, Modern English in the Making(D.Appleton and Company, 1928)は、その序文において、英語の成長を樹木の成長に譬えて次のように述べています。

拙訳を添えて書き留めておきます。


The English language, it should be realized, is not a wayside tree that has grown up wild; it is, rather, a highly cultivated plant which has been crossbred with other languages, which has for centuries been grafted and pruned, and which has been forced in its growth in a soil fertilized by classical culture.

理解しておかなければならないことは、英語は野生のままに育ってきた路傍の樹木ではないということだ。正確に言うと、英語とは他の言語との交配をうけて高度に改良された樹木であり、幾世紀にもわたって接ぎ木をされ刈り込まれてきていて、古典文化により肥沃にされた土壌のなかで成長を強いられてきた樹木なのである。




posted by 石崎 陽一 at 17:00 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2016年02月14日

if の根本義


flower (5).jpg



if という単語には

「何々かどうか(ということ)」

という意味と

「もし何々ならば」

という意味の両者が同居しています。

後者は、例えば「明日も晴れれば」のように、これから起こり得ることを単なる条件として述べる際に用いられます。

「明日も晴れれば」と言う場合、「晴れる」か「晴れない」かは五分五分の可能性です。

if という単語のもつ2つの意味を別個に捉えてこれまでやってきたのでしたが、ふと考えました。

続きを読む
posted by 石崎 陽一 at 13:00 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2015年07月30日

ラテン語の動詞 manere(残留する)にまつわる英語


indivisamanent.jpg
(retrieved from:http://is.gd/z7Ywwn



ラ・サール中学・高等学校(鹿児島県)の校舎には

indivisa manent

というラテン語が掲げられていると聞きました。

英語に直訳すれば

They remain undivided.

となります。

(ちなみに、この句は family motto of St. John Baptist De La Salle なのだそうです。)

−−−−−−

さて、この a Cathoric, Latin phrase に見られる manent は

「留まる、残る」の意の第二曲用の動詞 manere の直説法・能動相・現在、三人称複数の形です。

このラテン語の動詞 manere から派生した英単語には以下のようなものがあります。


remain((居)残る、留まる)

「残留する」という原義を留めています。


remnant(残り(物)、余り)

文字通り「残っている物」ですね。


permanent(永久の、常設の、常任の)

per- が「ずっと」の意ですから「最後まで留まる」が原義です。


あと、これは意外に思われるかも知れませんが、mansion も同根語なのですね。


mansion(大邸宅、館)

「留まる場所、滞在地」が原義です。(今は廃語ですが、かつては「滞在」の意で用いられていたようです。)

ちなみに、フランス語の maison は大邸宅ではなく普通に「家」を表すそうですね。

−−−−−−

一見、姿の異なる語同士が相互に連想の糸でつながっているというのは、本当に、面白いと感じます。


(追記)

Carl Darling Buck, A Dictionary of Selected Synonyms in the Principal Indo-European Languages: A Contribution to the History of Ideas(Chicago UP, 1949; paperback edition, 1988, p.836)は印欧祖語の *men- 'remain' は同じく印欧祖語の *men- 'think' と ultimately the same である可能性を指摘しており興味を引かれました。動き回りながら沈思黙考はできませんからね^^


posted by 石崎 陽一 at 10:09 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2014年12月14日

パエリャ、ポトフ、お鍋


パエリャ.jpg
(retrieved from:http://is.gd/eyqxmW


スペインの伝統料理にパエリャ(paella)がありますね。

米、鶏肉、魚介類、野菜などにサフランの香りをつけた炊き込みご飯です。

実は、このパエリャ(paella)、原義は cooking pot(料理鍋)なのだそうです。

日本語でも、「お鍋」が鍋自体を表す場合もあれば、鍋料理を表す場合もありますので、興味深く思えました。

そう言えば、クレヨンしんちゃんで、「今日の夜ご飯は鍋よ」としんのすけが言われ、鍋の器を食べると勘違いして怖がっていたシーンがありましたっけ。


ポトフ.jpg
(retrieved from:http://is.gd/xqRoLH


調理器具が料理名になった例には、他に、ポトフ(pot-au-feu)があります。

肉と野菜を大きな土鍋で煮込んだスープですね。

このフランス料理を英語に直訳すると pot on the fire ですから「火にかけた鍋」ということです。


−−−−−−


師走も半ばに差しかかり、さすがに寒さが増してきました(>_<)

鍋料理の恋しい季節が到来しています。

年末のお忙しい時期かと思いますが、皆さま、どうぞご自愛ください。

それでは、また。


(追記)

パエリャやポトフ、お鍋のように、ある事物を、容器など、それと密接な関係のあるもので表現することを、専門用語で、メトニミー(metonymy;換喩)と呼んでいます。

メトニミーに関しては、慶應大学の堀田隆一先生が運営されている「hellog〜英語史ブログ」における次の記事が参考になります。

metonymy



posted by 石崎 陽一 at 08:42 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2014年09月25日

a.m.


a.m..JPG
(クリックすると拡大します)


ラテン語では「午前中」は ante meridiem と言います。

略して a.m. として私たちも使っていますよね。

ante は英語の before にあたる前置詞、

meridiem は midday, noon に相当するラテン語 meridies の変化形ですから、

ante meridiem を直訳すれば before noon です。

COCA では34646件がヒットしました。

冒頭の写真は検索結果の一部を示しています。

用例から、時刻のすぐ次に添えるという a.m. の使い方にも注目しておきましょう。

−−−−−−

ちなみに、英語の before に相当するラテン語の前置詞 ante は ante- という接頭辞としても英語に入っており、

antecedent(前例、先例、先行詞)などに見られるように「〜の前の、〜の前に」の意味がありますが、

antenna

も同源なのですね。

たしかに触角は昆虫などの頭の先(前部)にあります。

いつになっても小発見は尽きません。


(追記)

英語には antemeridian(午前の)という形容詞があります。

そして、meridian(正午の)という形容詞もあります。

この語は「子午線」という意味の名詞として使われることも多いのですが、考えてみれば至極当然と言えます。

というのも、天球上の子午線を太陽が東から西へと通過すれば(南中すれば)、それが太陽時の正午だからです。

また、太陽は、朝、東から昇り、正午に真南で最高点に達します。

ここから、太陽の「最高点」、繁栄などの「頂点、絶頂、全盛期」という意味も出ています。

posted by 石崎 陽一 at 18:21 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

forenoon



forenoon.JPG
(クリックすると拡大します)


素朴な疑問ですが、afternoon があるのに beforenoon がないのはなぜだろうと思い、調べてみたら、forenoon という語を見つけました。

forenoon の fore- は before の -fore ですから、「正午前」が直訳。

夜明けから(特に8時、9時から)正午を指し、とりわけ早朝に対して午前の後半を指すこともあるようです。

「午前、昼前」といった感じでしょうか。

なお、『ジーニアス英和辞典 第4版[机上版]』(大修館書店、2007年、p.776)は forenoon に《古》のラベルを貼り、古い用法でのみ用いるとしています。

COCA でのヒットは10件に留まりました。

冒頭の写真は検索結果を示しています。


(追記1)

本記事の執筆に際し、『リーダーズ英和辞典 第3版』(研究社、2012年、p.908)を参照しました。


(追記2)

検索結果に見える forenoon watch は午前8時から正午までの「午前当直」の意の海事用語とのこと。

『グランドコンサイス英和辞典』(三省堂、2001年、p.974)の収録語の網羅性には本当に唸ります。



posted by 石崎 陽一 at 11:29 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2014年07月20日

ラテン語の名詞 ignis(火)にまつわる英語


fire.png



日本語の「火」にあたる英語は fire ですが、ラテン語では ignis がそれに相当します。

この語を含む格言をひとつご紹介しましょう。

ignis non extinguitur igne

これは

イグニス ノーン エクスティンギトゥル イグネ

と読みまして、直訳すれば

Fire is not extinguished by fire.
(火は火によって消されない)


ということですけれども、

「争いは争いで解決しない」

の意を表す金言です。



ignite.png



さて、この ignis に関連する英語がいくつかあります。

まずは ignite という動詞から見ていきましょう。


ignite a fuse
(導火線に火を付ける)

ignite a chunk of wood
(木切れに火を付ける)



何かに火を付ければ、燃焼を起こさせますね。つまり、着火が燃焼反応の原因となるわけですが、

こうして、文字通り「火を付ける」の意から、次のように、発火状態に限らず、

一般に何かの「原因となる」、何かを「引き起こす」の意が生じています。


ignite a forest fire
(森林火災を引き起こす)



また、比喩的な意味で「火を付ける」ことから何かを「刺激する」の意に発展するのも頷ける気がします。


ignite a civil war
(内戦に火を付ける)

ignite a controversy
(論争に火を付ける)

ignite A's interest
(Aの興味に火を付ける)

ignite growth
(成長を刺激する)

ignite high aspirations in A
(Aに高い志を持たせる、Aのやる気を刺激する)



ちなみに、ignite の名詞形 ignition は内燃機関の「点火(装置)」の意で、ignition key と言えば車のエンジンを始動させるための鍵のことを指します。


ignition key.jpg



さらに、ラテン語 ignis は、英語においては、igni- という形で「火、燃焼」の意の連結形としても用いられ、


ignipotent
(火を司る)



という詩語が生まれています。

なお、この連結形は母音の前では ign- となりまして、


ignescent
(パッと燃え上がる、火花を発する;激しやすい)

igneous
(火の(ような))



などの形容詞が生じています。

このうち、igneous は地学用語では「火成の」の意を表し、igneous rock と言えば「火成岩」のことです。

地下のマグマが冷え固まってできる岩石を指すのに使われます。


Igneous rock.jpg



一見、難語に思える単語でも、語源となるラテン語は、英語に直訳すると拍子抜けするくらい簡単な基本語であることがよくありますね。


(追記1)

冒頭に掲げた

ignis non extinguitur igne

という格言について補足しておきます。

ignis は「火」を意味する第三曲用の名詞で単数主格です。

extinguitur は「消す」を意味する第三曲用の動詞 extinguo の直説法・受動相・現在、三人称単数です。

igne は ignis の単数奪格で「火によって」の意です。

(なお、このように、英語なら by や with などの前置詞を用いて「手段」を表すところを、ラテン語は語尾を変える(格を変化させる)ことで表します。「手段」を表す格を奪格と呼んでいます。)


(追記2)

ignipotent における後半要素 potent は「〜の力を持つ」の意。

igneous における -eous はラテン語からの名詞借用語から「〜のような、〜の性質を持つ」の意の形容詞を造る接尾辞。

ignescent における -escent は「〜し始めた、〜になりかかった」の意の形容詞を造る連結形。


(追記3)

本記事の執筆にあたり、以下の文献を参照しました。

『プログレッシブ英語逆引き辞典』(小学館、1999年)
『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)
『羅和辞典』(研究社、1966年)
『リーダーズ英和辞典』(研究社、1999年)
『グランドコンサイス英和辞典』(三省堂、2001年)



posted by 石崎 陽一 at 18:42 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2014年04月06日

ラテン語は潜在的な英語である


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ラテン語は潜在的な英語である

ということを実感する単語があります。

procrastinate もそのひとつ。

これは postpone till tomorrow を1語で言ったような感じの難語ですが、

下線部が「明日」の意のラテン語 crās に由来していて

pro- が「前方に、先へ」を意味すると知れば、

「先へ延ばして明日にする」のイメージをつかみやすいのではないでしょうか。


Stop procrastinating − procrastination is the theif of time.
(先延ばしにするのはおやめなさい − 善は急げですよ)



(追記1)

他には、hodiernal という英語がありまして、

of this day(今日の、現在の)という意味ですけれども、

これも「今日」の意のラテン語が hodiē であると知ってれば記憶しやすいですね。

(追記2)

Christpher Parker 氏の名言。言い得て妙。

Procrastination is like a credit card: it's a lot of fun until you get the bill.
(先延ばしにするっていうのはクレジットカードみたいなもので、楽しいんだけど、それは請求書がくるまでなんだよね)




posted by 石崎 陽一 at 13:42 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2014年04月03日

emulsion と milk の関係


emulsion.jpg
(retrieved from:http://p.tl/Ony8


牛乳やクリームのような「乳状液、乳濁液」のことを emulsion と言いますが、

これは「乳房から乳を絞る」の意のラテン語 emulgere から来ています。

emulgere の下線部は、究極的には、印欧語根の *melg-(to rub off, milk)に遡るとされます。

この動詞は

e-(外へ)+ mulgere(乳房から乳を搾る)

という造りですから、文字通り「乳を搾り出す」行為を表しているのですね。

なお、風間喜代三『ことばの生活誌−インド・ヨーロッパ文化の原像へ−』(平凡社選書、1987年、pp.93-6)は、

*melg- という印欧語根がインド・イラン語派を除くほぼすべての語派に動詞、名詞として生きており、

音韻法則上、ギリシャ語の gála やラテン語 lāc とも関連があることを示唆しています。


(追記)

英語の milk が *melg- という印欧語根から来ていることも、語形的に一目瞭然ですね。



posted by 石崎 陽一 at 10:00 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

天の川と銀河と牛乳


The_Milky_Way.jpg
(retrieved from:http://p.tl/mhow


晴れた夜空で、乳白色に淡く光り、川の流れのように見える無数の星の集まりのことを「天の川」と呼んでいます。

その様がミルクを流したように見えるからでしょうか、

英語では the Milky Way と言いまして、ドイツ語でも die Milchstraß と表していますが、

天の川の漢語的表現は「銀河」ですので、

日本や中国では「銀色」と形容し、西欧では「乳白色」と形容しているのが私には興味深く思えます。



lactation.jpg
(retrieved from:http://p.tl/GTf3


英語の Milky Way も、ドイツ語の Milchstraß も、ともにラテン語の via lactea の直訳とされています。

ラテン語では、ふつう、形容詞は名詞の後ろから修飾するのですけれど、

この、milky にあたる lactea は milk の意の lāc という語の変化形です。

ちなみに、このラテン語 lāc からは

lactation(授乳、哺乳), lacteal(乳状の), lactic(乳の、乳酸を生成する), lactose(ラクトーゼ、乳糖), lactase(ラクターゼ、乳糖分解酵素), lactobacillus(乳酸菌), lactoprotein(乳タンパク質), lactescene(乳化)

などが派生しています。



galaxy.jpg
(retrieved from:http://p.tl/Tcyz


さて、the Milky Way galaxy は「天の川銀河」のことで、太陽系が属する「銀河系」を表します。

実は、この galaxy も「牛乳」の意のギリシャ語 gála に由来しているのです。

gála からは

galactic(乳の;銀河の), galactose(ガラクトース), galactite(乳石), galactin(ガラクチン), galactophore(乳管), apogalactism(離乳)

などの語が出ています。


(追記1)

印欧語族と乳について、風間喜代三『ことばの生活誌−インド・ヨーロッパ文化の原像へ−』(平凡社選書、1987年、pp.93-6)で興味深い論考が展開されています。それによると、ギリシャ語 gála とラテン語 lāc は同じ語根の語だと考えられるようです。また、96頁において、1958年刊行の参考文献を挙げ、

一説によれば、この「乳」はさらに東にのびてくる。それは中国語の酪 lâk < kłak で、これがあまりに似ているところから、トルコ語経由で中国語に借用されたのではないかとも推測されている。

としています。

これは山中襄太『日本語源の史的究明』(校倉書房、1978年、p.222)でも指摘されています。


(追記2)

関連記事はこちら


(追記3)

ラテックス採液.jpg
(retrieved from:http://p.tl/u1di

写真はラテックス採取の様子を示しています。

ラテックスとは植物から得られる乳状の樹液のことです。

刃物で樹皮に傷を入れ、傷口からにじみ出た白い乳液状のラテックスをカップに受けて採取。

写っているラテックスは3時間程度でたまったものだそうです。

マレーシアでは、このようにしてゴム樹からゴム液を採集していています。

このラテックス、英語で latex ですが、ラテン語にも同一綴りの latex という語があり、

laticifer(ラテックスを含む植物細胞、乳管), laticiferous(ラテックスを含む、乳液を出す)

などの関連語があります。


(追記4)

本記事の執筆にあたり、以下の文献を参照しました。

『明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店、2010年)
『旺文社 詳解国語辞典』(旺文社、1985年)
『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1999年)


posted by 石崎 陽一 at 08:25 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2014年04月02日

「したたる」と蒸溜、鍾乳洞


蒸溜.png

(retrieved from:http://p.tl/foag



液体を沸騰させ、生じた蒸気を冷やして再び液体とすることを「蒸溜する」と言います。

「蒸溜する」にあたる英語は distill です。

distill は de-(下へ)+ stillare(したたる)という造りで「滴下する」が原義。

蒸溜の「溜」は「したたる」の意ですから、何とも語源に即した名訳と言えます。



鍾乳洞.jpg



ラテン語 stillare に相当するギリシャ語は stalassein で、

こちらからは

stalagmometer(測滴計、滴歩計)

stalagmite(石筍(せきじゅん)), stalactite(鍾乳石), stalactite cave(鍾乳洞)


など、別系統の学術用語が生まれています。


(追記1)

鍾乳洞(stalactite cave)は雨水や地下水が石灰岩を溶かして出来た洞窟で、天井からは鍾乳石(stalactite)、下には石筍(stalagmite)が立ち並ぶことが多いです。

鍾乳石(stalactite)は鍾乳洞の天井に垂れ下がる、白色に近いつらら状の石灰岩で、石灰岩の割れ目にしみ込んだ地下水や雨水が炭酸カルシウムを溶かして流れ、したたり落ちて沈殿、成長したもの。

よって、釣鐘の「鐘」、そして「乳」の字が当てられたのでしょう。

石筍(stalagmite)は鍾乳洞(stalactite cave)の床に見られる筍状の岩石で、石灰分を含んだ水がしたたり落ちて積もってできたものです。

以上、『新明解国語辞典 第七版』(2013年、三省堂)、『現代国語例解辞典 第四版』(小学館、2006年)、『明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店、2010年)を参照して記しました。


(追記2)

「したたる」の意のラテン語 stillare から生まれた語を追加します。

instill は思想や行儀などを長年の間に「徐々にしみ込ませる、教え込む」、液体を「一滴ずつ垂らす」の意。

instillment は「滴下、点滴;徐々に教え込むこと、洗脳」の意。

instilation は「点滴注入(法)、点眼(薬・剤)」の意。


posted by 石崎 陽一 at 13:18 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2014年04月01日

英語と古典語


PPH_kiiriohanatocyoucyo500-thumb-260xauto-948.jpg



同じ事物を指すギリシャ語、ラテン語からそれぞれ派生した単語の混在する例が英語に見られます。

例えば、

「魚」を表すギリシャ語 ikhthûs からは

ichthyology [ìkθiɑ'ləʤi]
(魚類学、魚学)


が、

「魚」を表すラテン語 piscis からは

piscator [piskéitə(r)]
(漁師)


が出ており、

「鳥」を表すギリシャ語 órnis からは

ornithology [ɔ`:(r)nəθɑ'ləʤi]
(鳥類学、鳥学)


が、

「鳥」を表すラテン語 avis からは

aviary [éivièri]
(鳥小屋、飼鳥園)


が出ているといった具合です。


(追記)

ちなみに、Ichthyosaurus(イクチオサウルス、魚竜)はジュラ紀に全盛であった魚形の恐竜のことです。

その他、以下に派生語を挙げておきます。ついでにボキャビルをしましょう。

ichthynic(魚の、魚類の), ichthophagist(魚類を常食としている人)

なお、-phagy は「常食」の意の連結形で、-phagist は「〜を常食とする人」の意の連結形です。

aviculture(鳥類飼育); aviation(飛行、航空), aviator(飛行士)

ornis(地方鳥類), ornithic(鳥の), ornithomancy(鳥占い), ornithoscopy(占いを目的とした鳥の観察)

なお、-mancy は「占い、予言(divination)」の意の連結形。-scopy は「検査(法)、観察」の意の連結形です。ornithoscopy は、つまり、特別な目的をもって行う bird-watching ということですね。

Pisces(うお座), piscine(魚の), piscivorous((鳥などが)魚を食う), piscary(漁業権), piscatory(漁船員の、漁業の、魚釣りの), pisciculture(養魚(法)), piscina(養魚地)

なお、-vorous は「〜食性の」の意の連結形です。


posted by 石崎 陽一 at 08:19 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2014年03月31日

地震を表す英語



「揺れ、地震」は英語でふつう earthquake と言います。

この語は文字通り「大地の(earth)揺れ(quake)」から来ており、口語では短縮して quake と言ったりもします。



seism.jpg



また、少し難しい言葉ですが、「揺れ、地震」を表すのに seism [sáiz(ə)m] という英語もあります。

この語は「揺れる、震動する」を意味するギリシャ語 seíein に由来します。

なお、seism は


seismism(地震現象;地震活動), seismic intensity(震度), the seismic center(震央), antiseismic(耐震の), aseismic(非地震性の;地震がない)

seismogram(振動記録), seismograph(地震計、振動計), seismography(地震観測(術)), seismology(地震学)



など、専門性のある語において連結形に使われます。


(追記)

アメリカでは「地震」の意味で temblor という語も用いられます。

また、「弱い地震;余震」のことは tremor と言います。

両語とも「震える」を表すラテン語 tremere に由来しますが、

このラテン語は、ただ物理的な振動だけでなく、人の心を震え上がらせる意の英語にも用いられています。

tremble((寒さ、恐怖などのために)震える、(音声が)震える)
tremendous((人を震え上がらせるほど)恐ろしい)
tremurous(震える、ビクビクしている、臆病な)


なお、音楽用語でトレモロ(tremolo)と言えば「一つの音を急速に反復することで生じる震える音」のことです。


posted by 石崎 陽一 at 10:14 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

periphery と円周率の話


KIJ_mankainoumenohana500-thumb-260xauto-1354.jpg



periphery という英語があります。

「周辺、周囲;外周、円周」を意味する語で、通例 the を付けて用います。


People have migrated to the periphery of cities.
 (人々は都市の周辺部へと移動していっている)



また、例えば、詐欺師や逃亡者などに関して、次のように比喩的な意味でも使われます。


live on the periphery of society
 (社会の周辺で生きる)




わかった!.gif



この語はギリシャ語で「周辺;円周」を意味する περιφέρεια(= periphereia)が語源です。

ちなみに、円周率(円周の直径に対する比の値)は π という記号で表されますが、

この περιφέρεια の頭文字を採ってできたものです。


posted by 石崎 陽一 at 09:37 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする

2014年03月24日

summer と estival



今回は前々回で扱った dormant に関連して dormancy(休眠)の話題。


−−−−−−


熊や蛇、蛙など、ある種の動物は、越冬に際し、活動をやめ、食物をとらずに土や穴の中で過ごします。

これを冬眠(hibernation)と呼ぶことはおなじみだと思いますが、さて、では、夏眠のほうはいかがでしょう。


estivation.jpg
(retrieved from: http://p.tl/r6F2


夏眠について調べていて、以下の記事が参考になりましたので共有したいと思います。(下線は現筆者による。)


Long periods of extreme drought and heat prompt some animals to estivate − the summer equivalent of hibernation. The animal goes into a dormant state in a sheltered area insulated from the harmful effects of sun and heat. The metabolic rate slows, but not as much as in hibernating animals. An estivating animal can arouse more quickly from its torpor.

Animals do not eat, move or grow during this time. Reptiles use 90-95% less energy when they are estivating. Many animals, such as toads, snakes and lizards, dig under leaf litter, brush, and vegetation. Some frogs and salamanders store energy in small fat sacs which they slowly expend while tucked in their cool damp underground refuge waiting for cooler, moister weather. Certain frog species also shed a layer of skin in their holes. This protective layer wrapped around their body inhibits moisture loss.

Examples of estivators include bees, ladybugs, earthworms, snails, frogs, toads, snakes, turtles, and lizards. The survival of these animals during extreme weather conditions depends on landscapes that include suitable habitat for estivation. How long an animal estivates varies individually and depends on the availability and distance to food and shelter as well as heat and drought conditions.



文中、下線を引いた単語は「夏眠」にまつわる語彙ですが、

この際、ついでにボキャビルしておきましょう。

estivate は「夏眠する」の意味の動詞。

その ing 形である estivating はここでは「夏眠中(の)」を指す。

estivation は estivate の名詞形で「夏眠」であり、

estivator は estivate に「何々する人・もの」を表す語尾 -or が付いてできた名詞だから「夏眠する動物」の意である。

なお、これらの語彙はまた aestivate, aestivation, aestivator と綴られることがあり、こちらのほうが語源に近いスペリングです。

というのも、語源である「夏」を表すラテン語が aestus だからなのですね。

よって、英語で aestival または estival と言えば、「夏の」を表します。


(追記1)

本記事における「冬眠」という語の定義は『明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店、2010年、p.1225)に拠っています。


(追記2)

estivate は、次の例文のように、「(特定の場所などで)夏を過ごす」の意味でも使われます。

I estivate during this time of year in a nice cool dark bar someplace or in the living room with the blinds down and the AC on.http://p.tl/QjqN


(追記3)

<ae>(または <æ>)と <e> の関係については以下の記事を参照してください。

Œconomy に見られる合字(連字)Œ について

PE における æ の使用について


(追記4)

与謝野達『ラテン語と日本語の語源的関係』(サン パウロ、2006年、p.430)は

aestus ないしその派生語から、日本語の「暑さ、暑い、熱い」などが出ていると考えられます。また、アツアツもここからの派生語とみられます。

と指摘しています。


(追記5)

dormant に対する dormancy のように、-ant で終わる形容詞が -ancy で終わる名詞形をもっていることがあります。例えば、高校レベルの単語から選んで(形容詞, 名詞)の順に挙げると、(vacant, vacancy), (expectant, expectancy), (pregnant, pregnancy), (infant, infancy)など。


posted by 石崎 陽一 at 05:40 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする
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