2018年04月01日

「外科医」を表す二重語(doublet)


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『英語語源辞典』(p.1384)でたまたま、

「外科医」を意味する surgeon[sə'ːrdɜən]が、古語で「外科医」を意味する chirurgeon[kairə'ːrdɜən]と二重語(doublet)だ

と知り意外に感じました。

綴りも発音もまったく異なるからです。

(二重語とは、同じ語源の言葉が異なった経路を経て英語になった一組の言葉(あるいはその組の一語)を指して言う語です。)

興味をもち調べてみました。まとめておきたいと思います。

−−−−−−

chirurgeon という語は、

ギリシャ語で「手」を意味する cheir と
「仕事、作業、実践」を意味する ergon、
そして「何々する者」を表すラテン語由来の語尾 -an と

から成る語です。

(ergon の関連記事はこちら。)

元来、chirurgeon は医者のうち「手を使って作業する者」の意だったのですね。

(『英語語源辞典』(p.1384)によれば、古くはときどき広い意味の「医者」を表すのに用いられることもあったようです。)

W.W.Skeat の The Concise Dictionary of English Etymology(Oxford University Press, 1882, pp.88-89)によれば、

chirurgeon は the old spelling of surgeon であり、surgeon は contracted form of chirurgeon とのことです。

当時の両者の発音は類似していたということでしょうか。

(ちなみに、「外科医」のことを、ドイツ語では Chirurg と、フランス語では chirurgien と、いまだに?言っています。)


(追記1)

52億冊の本から5000億語を集めた巨大データベースで、数百年前から今日までの書籍に現れる単語(2語以上ならそのフレーズ)の流行り廃りを時系列の折れ線グラフで見ることができる Google Books Ngram Viewer に chirurgeon と surgeon とをかけてみた結果が次の画面です。

chirurgeon_surgeon.JPG

(クリックすると拡大します)


(追記2)

関連記事はこちら。

When did chirugeon make way for surgeon?

When did 'chirurgy' become 'surgery?'


(追記3)

冒頭の写真は The workes of that famous chirurgion Ambrose Parey(London, 1634)から採りました。Thomas Johnson による仏語からの英訳本です。

なお、Encyclopedia Britannica によれば、Ambroise Paré はフランスの外科医で the father of modern surgery とされる人物だそうです。


(追記4)

ギリシャ語で「手」を意味する cheir を語幹にもつ英語の同族語に次のような語があります。

なお、英語での語頭の連結形は cheiro- または chiro- です。

chirognomy(手相占い)
★“chiro-(手)+-gnomy(判断術、判断学、認識)”が原義です。palmistry とも。

chiromancy(手相術)
★“chiro-(手)+-mancy(占い)”が原義です。palmistry とも。なお、chiromancer は「手相見(人)」の意。

chirograph((自筆)証書、署名文書)
★“chiro-(手)+-graph(文書、記録)”が原義です。

chirography(筆法、書法、書(体)、筆跡)
★“chiro-(手)+-graphy(表現法、記述法)”が原義です。chirographer(書家)という語も。

chironomy(身振りの技術、パントマイムの技術)
★“chiro-(手)+-nomy(知識体系、秩序法則)”が原義です。chironomer(身振りで話す人)という語も。

chiropody((手)足治療)
★“chiro-(手)+-pody(足)”が原義で、まめ、たこなどの治療、爪切りなどを指していう語です。podiatryとも。

chirology(手の研究;身振り言語)
★“chiro-(手)+-logy(研究、学問)”が原義です。

chiroptera(翼手類動物)
★“chiro-(手)+-pter(翼のあるもの)”が原義です。コウモリなどを指して言う語です。なお、chiropter だとずばり「コウモリ」を指します。

chiropractic((脊柱)指圧療法)
★“chiro-(手)+-practic(作業)”が原義です。

chirarthritis(手関節炎)
★“chiro-(手)+-arthron(関節)+-itis(炎症)”が原義です。

chiromegaly(巨手(症))
★“chiro-(手)+-megaly(部分的拡大、肥大)”が原義です。

chiroplasty(手(指)形成(術))
★“chiro-(手)+-plasty(成形、形成手術)”が原義です。

chirokinesthesia(手運動(感)覚)
★“chiro-(手)+-kine-(運動)+-esthesia(感覚)”が原義です。

chiropodalgia(手足痛)
★“chiro-(手)+-pod-(足)-algia(痛み)”が原義です。

chirospasm(手痙攣、書痙)
★“chiro-(手)+-spasm(痙攣)”が原義です。

母音の前では chir- となります。

chirurgical(外科的の)

chiral((手)掌性の、対掌性の)
★手汗のことを手掌性多汗症とも言います。

chirality(キラリティ、手のひら対称性、(手)掌性、対掌性、左右性)
★化学の用語。左右の手のように、鏡像関係にあって重ね合わせることのできない物質の性質を指して言う語。
机の上に右手の掌と左手の掌を重ね合わせても、決して形は一致しません。こうした不一致を chirality と呼んでいます。(ちなみに、原像と鏡像とを重ね合わせることができる性質は achirality と言います。)

1200px-Chirality_with_hands.svg.png

(retrieved from:https://goo.gl/R4DVZu


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(retrieved from:https://goo.gl/R4DVZu


(追記5)

本記事の執筆にあたり次の文献を参照しました。

『英語語源辞典(縮刷版)』(研究社、1997年)
『プログレッシブ英語逆引き辞典』(小学館、1999年)


posted by 石崎 陽一 at 14:45 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする
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