2017年03月26日

イギリス英語における、直説法による仮定法現在の代用


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(a)I insisted that he change his clothes.

(b)I insisted that he changed his clothes.


この2つの例文を挙げ、Quirk et al., A Comprehensive Grammar of the English Language(Longman, 1985, p.1015)は


insist を request の意味で用いる場合は後続の that 節内では仮定法現在を、

insist を assert の意味で用いる場合は直説法を用いる



と説明しています。

((b)は事実を主張するのですから、直説法を用いるのはごく自然です。)


ところが、その上で、次のような但し書きを付しているのが注目に値します。

曰く、如上の説明から


that 節内で仮定法現在の使われている(a)において insist が request の意で用いられているのは明らかだけれども、

that 節内で直説法の使われている(b)においてもまた、insist が request の意で用いられている可能性が半分はある



というのです。



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このように、『上掲書』(p.1182)は

insist に限らず、suggest, propose, recommend などの説得動詞(suasive verbs)に後続する that 節内で直説法の動詞が用いられる場合

を認め、

それは主にイギリス英語に限られる

と述べています。

つまり、冒頭に掲げた


(b)I insisted that he changed his clothes.


という、後続する that 節内に直説法を用いた文においても insist が request の意となり得るのは、

特にイギリス英語においてのことである

ということなのですね。

実際、Geoffrey Leech, Marianne Hundt, Christian Mair, and Nicholas Smith, Change in Contemporary English: A Grammatical Study(CUP, 2009)は


the indicative after suasive expressions is indeed a syntactic Briticism(p.57)


であり、


In spoken English, the indicative is used much more frequently than the subjunctive, whereas in written BrE, it is the least frequent alternative.(p.56)


であると指摘しています。(下線部は現筆者による。)


したがって、

説得動詞(suasive verbs)に後続する that 節には直説法の動詞は使用されない

かの如く述べることは控えたほうがよいと思われます。



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(追記1)

R.A. Close, A Reference Grammar for Students of English(Longman, 1975, p.47)は imagined action in the future を表す動詞として propose と recommend を取り上げて


(a)We propose[recommend]that Mr X should go.

(b)We propose[recommend]that Mr X goes.

(c)We propose[recommend]that Mr X go.


(a)We propose[recommend]that Mr X should be dismissed.

(b)We propose[recommend]that Mr X is dismissed.

(c)We propose[recommend]that Mr X be dismissed.


という3対の例文を挙げ、(a)は formal, (b)は informal, (c)は formal and typical of official style だと考えられると記しています。

綿貫陽・マーク・F・ピーターセン『表現のための実践ロイヤル英文法』(旺文社、2006年、p.204)は

(b)に相当する言い方について、「くだけた言い方」以外、とりわけ「書くときは避けたほうが無難」と指南しています。


(追記2)

B.D. Graver, Advanced English Practice(OUP, 1986)の第3版は

should in noun clauses after suggest, recommend, etc.

という項目を立て

Should is often used in a 'that' clause, after the verbs like suggest, recommend, require, decide, etc.

Should is sometimes omitted in such sentences, leaving only the infinitive without to.

The verb form is then sometimes 'regularized' to give the 'normal' sequence of tenses.

と指摘しています。

特に、上の2つ目の点において、「should が省略されて動詞の原形が残ることがある」という言い方がなされているのに目を引かれました。


(追記3)

(a)We insist that Marsha tell the truth.

(b)We insist that Marsha tells the truth.

(c)We insist that Marsha must tell the truth.

Lynn M. Berk, English Syntax(OUP, 1999, pp.149-50)は上の3つの文を挙げ、

(b)も(c)も伝える意味は(a)と変わらないが、この2つは subjunctive utterances ではなく、directives(指示)である

旨のコメントをしています。

なお、小西友七 編『現代英語語法辞典』(三省堂、2006年、p.636)には insisted に後続する that 節において must が用いられた例とともに「命令的な意味を表す will」が時制の一致を起こした例を挙げています。


(追記4)

Huddleston and G.K.Pullum, The Cambridge Grammar of the English Language(CUP, 2002, p.996)は

ambiguity between mandative and non-mandative clauses

という項目を立てています。


(追記5)

『詳説レクシスプラネットボード』(旺文社、2004年、pp.144-5)に興味深い統計データと分析が掲載されています。


(追記6)

Geoffrey Leech, Marianne Hundt, Christian Mair, and Nicholas Smith, Change in Contemporary English: A Grammatical Study(CUP, 2009, pp.51-70)で詳述されています。

ちなみに、本記事のタイトルは同書(p.54)の

Another variant, namely the indicative (e.g. I recommend that she uses fewer passives), is really only an alternative in BrE.

という記述から採りました。


(追記7)

千葉修司『英語の仮定法 − 仮定法現在を中心に −』(開拓社、2013、pp.19-20, 224-8)にも詳述があります。


(追記8)

「説得動詞(suasive verbs)に後続する that 節には直説法の動詞は使用されない」との誤解を招きやすい記述を有する書籍には、たとえば、友繁義典『英語の意味を極めるU − 動詞・前置詞編 −』(開拓社、2016年、pp.24-5)があります。


(追記9)

小西友七 編『現代英語語法辞典』(三省堂、2006年、p.636)は

(a)I insisted that he should stay in bed.

(b)I insisted that he stay in bed.

(c)I insisted that he stays in bed.

(d)I insisted that he stayed in bed.

という4例を挙げ、(a)の should stay は英米ともに堅い表現、(b)の stay は英米ともにくだけた表現、(c)の stay は英国のくだけた表現であり、(d)は過去のアリバイを主張していると説明しています。


(追記10)

Bergen Evans and Cornelia Evans, A Dictionary of Contemporary American Usage(Random House, 1957, p.484)より引いておきます。

In the United States the present subjunctive is almost always used here, as in I suggested he take it with him, we insisted that she get to work on time, it is imperative that he know the truth. In Great Britain this use of the present subjunctive is considered "pedantic." Englishmen prefer to use the auxiliary should as in I suggested he should take it with him. In the United States the simple subjunctive is the form used most often in natural speech. The construction with should appears too, but is felt to be "bookish" or "British."


(追記11)

稲田俊明『〈新英文法選書3〉補文の構造』(大修館書店、1993年、p.147)より引いておきます。

アメリカ英語で義務の仮定法が使われるところで、イギリス英語では直説法が使われる傾向がある(ただし be 動詞はイギリス英語でも直説法は避けられる)。

なお、「義務の仮定法」とは mandative subjunctive の同書における訳です。

ちなみに、柏野健次 編著『英語語法レファレンス』(三省堂、2010年、p.283)は「命令を表す仮定法」としています。


posted by 石崎 陽一 at 12:10 | Comment(0) | 文法・語法ノート | 更新情報をチェックする
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