2014年08月04日

文法体系外(extragrammatical)の情報が構文の正しい理解を決定する(その2)


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いまから半世紀前、1960年代に、ハーバード大学で構文解析プログラム(computer parser)が開発されました。

コンピュータに入力された文字列を構成要素に分けて詳細に分析してくれるという代物ですが、このプログラムに

Time flies like an arrow.

という一文を解析させたところ、なんでも、以下のように、5通りの読み方が示されたというのですね。

Steven Pinker, The Language Instinct(New York:W.Morrow, 1994, p.209)より引きます。(和訳は拙訳。以下同様。)


Time proceeds as quickly as an arrow proceeds.
(時間は矢が進む速さと同じくらいの速さで進む)

Measure the speed of flies in the same way that you measure the speed of an arrow.
(君が矢の速さを測定するのと同じやりかたで蝿の速さを測定せよ)

Measure the speed of flies in the same way that an arrow measures the speed of flies.
(矢が蝿の速さを測定するのと同じやりかたで蝿の速さを測定せよ)

Measure the speed of flies that resemble an arrow.
(矢に似た蝿の速さを測定せよ)

Flies of a particular kind, time-flies, are fond of an arrow.
(一種の蝿である時間蝿は矢を好む)



馬鹿正直でなかなか笑えますが^^ Pinker 氏も次のように述べています。(Ibid.)


Computer parsers are too meticulous for their own good. They find ambiguities that are quite legitimate, as far as English grammar is concerned, but that would never occur to a sane person.
(コンピュータの構文解析プログラムは細かさが度を超しているのが欠点だ。文法的には完全に正しくても、普通の人なら思いも付かないような多くの意味に気付いてしまうのだから)



昨日の記事で中国の寒山寺をめぐる張継の詩を取り上げ、

文法的には正しい「誤読」や「誤訳」に陥るのを防ぐ原理は文法構造そのものの中にはない

という事実を指摘しました。

今回は

Time flies like an arrow.

という英文を取り上げ、同様の事実を皆さんとともに確認した次第です。


(追記1)

Time flies like an arrow.

は「光陰矢の如し」にあたる諺とされますが、「矢の如し」に相当する like an arrow は付けないのが英語的とされます。

実際、F.P. Wilson, The Oxford Dictionary of English Proverbs(1970, p.823)にも

Time flies.

という形で収録されています。


(追記2)

井上ひさし『私家版 日本語文法』(新潮社、1981年、pp.236-7)にも言及があります。


(追記3)

久野ワ・高見 健一『謎解きの英文法 動詞』(くろしお出版、2017年、p.115-8)に詳述があります。ここでは一節を引いておきます。

我田引水になりますが、Time flies like an arrow. が多義文である、という考察は、筆者が1960年に渡米して、ハーバード大学の計算研究所の自動翻訳システム研究グループに参加して開発した英語構文解析システムのプロトタイプが完成して初めて得られた認識です。(p.118)


posted by 石崎 陽一 at 19:51 | Comment(0) | 教師論・学習指導・進路指導 | 更新情報をチェックする
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