2014年08月03日

文法体系外(extragrammatical)の情報が構文の正しい理解を決定する


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唐の詩人・張継に「楓橋夜泊(ふうきょうやはく)」と題する詩があります。

中国・江蘇省蘇州の古寺、寒山寺をめぐる七言絶句です。

さて、この名詩の冒頭、「月落烏啼」の箇所だけを示された場合は、文法的に、二様に読むことができます。

「月落チ烏啼イテ」か、「月ハ烏啼(うてい)ニ落チ」か。

はたして、どちらに読むのが正しいか。



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「楓橋は蘇州府城の西七里にあり、山に面し水に臨み、南北往来するもの必ずここを経る」(一統志)

とあるように、どうも楓橋は山に面しているらしいのですね。

ということは、この山の名が烏啼山であれば「月ハ烏啼ニ落チ」と読むべきであります。

ですから、どちらが正しい読み方か、決めるにあたり、最も簡単なのは、文献調査や地理的踏査を行うこと。

烏啼山の存在の有無を確かめればいい。

すなわち、文法とは関係のない知識や情報によってはじめて、構文の正しい理解がもたらされるというわけです。

構文の正しい理解を決定する文法体系外(extragrammatical)の情報とは、

常識の場合もありますし、

文章の前後関係(context)の場合もありますし、

「烏啼山」のあるなしのような、事実的情報(英語に訳せば real facts とか realities になりますが、ドイツ語の Realien を使う人が少なくありません)の場合もあります。

文法的には正しい「誤読」や「誤訳」に陥るのを防ぐ原理は文法構造そのものの中にはない

という事実は、学習者、指導者ともに、心に留め置くべきでしょう。


(追記1)

ここまでの記事は、渡部昇一『英文法を撫でる』(PHP新書、1996年、pp.66-74)に依拠して記述しています。なお、「月落チ烏啼イテ」のほうに分があるようです。


(追記2)

蘇州はかつて「東洋のベニス」などとうたわれた古都です。寒山寺は水の都・蘇州の西郊の楓橋鎮にあり、唐代の高僧寒山と拾得が住んだことからその名がつけられました。


(追記3)

「烏啼」(うてい)の話を読んだとき、カラスが夜鳴くのはおかしいと思ったのですが、1999年1月11日付「産経抄」によると、「烏」とはカササギ(鵲)のことなのだそうです。カラスもカササギもスズメ目カラス科の鳥。カササギにはチョウセンガラスの別名もあるとのこと。なお、カササギの声は、吉事の前兆とかめでたいことがあると言われ、七夕の夜は織女がカササギにのって天の川を渡ると言います。



posted by 石崎 陽一 at 11:22 | Comment(0) | 教師論・学習指導・進路指導 | 更新情報をチェックする
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