2014年07月13日

時制の一致は惰性の一致


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本ブログの読者の方から以下のような質問を頂戴しました。


I didn't know that World War U had broken out in 1939.
(私は第二次世界大戦の勃発したのが1939年だったのを知らなかった)

という英文がある書籍に掲載されています。

第二次世界大戦が1939年に勃発したのは歴史的事実なので、時制の一致をさせずに、過去時制を用いて

I didn't know that World War U broke out in 1939.

とすべきではないかと生徒から質問を受けました。

こちらでも色々文法書で調べたりしたのですが、どうもよく解りません。

ご教示のほどお願いいたします。



−−−−−−


柏野健次 編著『英語語法レファレンス』(三省堂、2010年)は

これ[=時制の一致]は規則ではなく1つの傾向として考えておくのがよい


とし、その理由は

主節の過去時制に引かれて惰性で時制の一致が行われる(p.350)

こともあるからだとしています。

そして

次の(15)や(16)のように歴史的陳述や一般的真理の場合でもこの惰性での時制の一致は見られる(p.351)

として

(15) He said that World WarT had broken out in 1914.
(16) My teacher said that two and three made five.


という用例を示しています。(Ibid.)

なお、『上掲書』の「まえがき」によれば、こうした用例は柏野先生が個人的に作られた、総語数約1500万語のコンピュータ・コーパスから作成し、ネイティブチェックを受けた上で採られたものとのこと。

Kashino Database と名づけられたこのコーパスには、1990年代から2008年にかけて出版された英米の小説を始め、映画のシナリオ、エッセイなどから用例が集められていると言います。

そのことも勘案しますと、ご指摘の書籍の英文は現代英語の言語実態に即した英文と言うことができるかと思います。


(追記1)

佐藤誠司「入試の悪問から学ぶ文法指導のヒント 第4回」(『英語教育』(大修館書店、2014年7月号、pp.46-7)所収)では

発話時(現在)を基準にすれば過去形を使いますが、伝達動詞の時制を基準として「それより前に〜した」という意味を強調したいときは過去完了形を使い、had を強く読みます。「時制の一致の例外」とは、基本的に「(発話時を基準として)時制を一致させないこともある」という意味です。文法参考書にも「時制を一致させてはいけない」とは書かれていません。

という事実に触れた上で、

その点を誤解している人が多く、「時制を一致させるのは誤りだ」という間違った認識に基づく(中略)出題がよく見られます。

と指摘しています。

時制の一致の「例外」という言いまわしが適切なのかどうかは、指導にあたり、一考したいポイントです。


(追記2)

「惰性の一致」という言い方は、理屈で考えず、時制の一致が機械的に行われることに対するネーミングですが、江川泰一郎『英文法解説』(金子書房)の改訂三版(1991年、p.466)において見られます。

そこでは

私自身は以前から「時制の一致」を「惰性の一致」と呼ぶことにしている。

とされており、実際、改訂新版(1964年、pp.240, 242)には「惰性で」という文言が見られます。

なお、初版(1953年)ではまだ見られません。

ちなみに、「心的惰性」(mental inertia)という言い方自体は Jespersen が Modern English Grammar(Part W §11.1(3))において用いています。


(追記3)

石や木のように、空気にも重さがありますので、地球の表面には、大気の重さがかかっていることになります。

すなわち、大気の重さが圧力を及ぼしている。

たしかにこれは科学的事実なわけですが、名古屋大学の入試問題(2009年2月実施)に見られる次の一節において下線部が現在形でないのは、惰性で時制の一致が行われたと考えることができます。

Galileo discovered that atmosphere had weight and so could exert pressure.


(追記4)

河上道生・J.D.Monkman『英作文参考書の誤りを正す』(大修館書店、1982年、pp.64-5)でも、

先生は生徒に「第2次世界大戦は1945年に終わった」と言った。

という日本語を間接話法で英訳する際、

これは被伝達文の内容が「歴史的事実」である場合の例であるが、この場合も時制の一致に従って came を had come とすることは決して誤りではない。

と指摘しています。


(追記5)

『現代英文法講座 第三巻 動詞(上)』(研究社、1969年、p.89)は「従節の内容を不変の真理として述べる場合」には過去形を用いても、現在形を用いても、どちらでもよいが、現在形を用いた方が、「話し手がこれを真理と考えているという立場がはっきりする」と述べています。


(追記6)

『英語教育』(大修館書店、2017年4月号)の Question Box(pp.78-9)はその回答において

「不変の真理」は時制の一致を受けないのか

という題の下、惰性での時制の一致が取り上げられています。


posted by 石崎 陽一 at 03:08 | Comment(0) | 文法・語法ノート | 更新情報をチェックする
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