2013年07月26日

主節における仮定法の使用(願望を表す場合)


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私たちが心の中で、健康・幸福・成功など、祈願する事柄を言い表す文を祈願文と呼んでいます。

祈願文は古文体で、同様の内容は hope や wish を用いて表現するのが現在では自然です。

決まり文句を除き、日常用語としては多く用いられないのですが、

仮定法の体系の理解の深化と古い英語の読解の便宜のため、

固定した表現でありごく特殊な型の表現であるとお断りした上で

祈願文をここで扱うことにします。


祈願文は2種類に大別することができます。

一つは現在または未来に関して

「こうあってほしい」

の意を表すもので、

もう一つは現在または過去の事実に反し、

「こうあってほしかったのに」

の意を表すものです。

そして、いずれの場合も、心の中の事柄(祈りの心)の表明であり、

それを文法上で明らかに示すために

動詞は仮定法を用いるのですね。

また、ふつう、書き言葉では、文末に “!” を付けます。


まずは、現在または未来に関して「ひたすらな願い」を表す場合から見てみましょう。

この場合は、ふつう、主語を文頭に立てて、仮定法現在の動詞を述語に据えて表します。

現代英語では


God save the Queen!
(神様が女王を守らせたまわんことを!)

Long live the Queen!
(女王陛下が長生きされんことを!)



のような成句にのみ残っていて、

一般には仮定法の代用として助動詞の may を用います。


May peace prevail on Earth!
(世界が平和でありますように)

May you find true happiness in your life together!
(おふたりの人生にほんとうのしあわせがありますように)



このように、この場合、may はいつも主語よりも前に立ちます。

次は Anthony Trollope(1815–82)の作品(Orley Farm)に見られる両形併用の例です。


God help her; May God help her!


続いて、現在または過去の事実に反し、「こうあってほしかったのに」という思いを表す場合を見てみましょう。

この場合、現在では I wish などで文を切り出すわけですが、

少し古い英語ですと、文頭に


Would(that)

Wish to God(that)



などを置き、

後続する節において、

現在に関する内容であれば仮定法過去を、

過去に関する内容であれば仮定法過去完了を

述語に用いることがあります。


Would that I had a brother or sister!
(兄弟や姉妹がいたらと思う)

Wish to God that I had never said that!
(私はそんなことを言わなければよかったと後悔しています)



なお、如上の場合における Would, Wish は I would, I wish の意味で、

would はそれ自身既に仮定法であり、

would rather の would と同じ。

古語で「望む、欲する」を意味する動詞 will の仮定法過去なのですね。


(追記1)

本記事の執筆に際し、細江逸記『英文法汎論』(篠崎書林、1993年、p.158-60)を参照しました。


(追記2)

大塚高信『シェイクスピア及聖書の英語』(研究社、1967年、p.124)より引きます。(漢字は新字体に、仮名は現代仮名遣いに改めてあります。)

古代英語にあっては、恰も現代のドイツ語の如く仮定法の使用は、頻繁であったが、現代の英語では、現在形の “be,” 過去形の “were” を除くと、一般動詞では、三人称単数の現在形に “-s” なる語尾をとらない形として、僅かにその残影を止めているに過ぎない。然もこれらの僅かな形も、実際は余り使用されず、多くの場合、叙実法の形を用いて居る。然るにシェイクスピア時代は、現代に較べると、まだまだ仮定法が可成り使用されている。これは、現代英語とシェイクスピアや聖書の英語の重要な差異といわなくてはならぬ。仮定法の衰退は、簡潔ならんとする言語表現の一般的傾向によるのであるが、その原因の一つとして、諸々の助動詞の発達を見逃してはならぬ。即ち、昔ならば仮定法を用いて表現していたことを助動詞がその任務を代行するようになったのである。だから、仮定法の使用は、同時に助動詞の使用と併せ考えるべきである。

なお、文中の「叙実法」とは「直説法」のことを指しています。


(追記3)

安藤貞雄『現代英文法講義』(開拓社、2005年、p.365)は

聞き手に不利益になる祈願は「呪詛・ののしり」に転換する

として Damn you! や Fuck you! などを例示しています。

また、安藤貞雄『英文法を探る』(開拓社、2007年、p.99)にも言及があります。


posted by 石崎 陽一 at 14:34 | Comment(0) | 英語史的な説明 | 更新情報をチェックする
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