2013年07月26日

中世以来の、文章語・学術語としてのラテン語の位置(と国語に対する劣等感)


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中世以来の、文章語・学術語としてのラテン語の位置は、近代英語の初期になっても引き続いて見られました。

Restoration 期(1660-1700)の群小詩人である Edmund Waller(1605-1687)は

1664年に桂冠詩人の Dryden の過賞を得て好評を博した人物ですが、

次のような一節を残しています。

この一節は、この間の消息を物語っています。(拙訳を付します。)


But who can hope his lines should long
Last in a daily changing tongue?
While they are new, envy prevails;
And as that dies, our language fails.
Poets who lasting marble seek,
Must carve in Latin, or Greek;
We write in sand, our language grows,
And, like the tide, our work o'erflows.

日々に移りゆく言の葉に、歌の調べがとこしえに
長らえようとは、誰にも望むことはできない。
歌の調べが新しいうちは、妬みが渦巻く。
妬みが消えても、わが言の葉は崩れてしまう。
長くもつ大理石を求める詩人たちは、
ラテン語かギリシャ語で書かねばならぬ。
われわれは、真砂に字を書き、言の葉が増せば
上げ潮の如く、わが歌を流し崩してしまう。



このように、変化の激しい国語では、せっかく詩を書いても後世で読まれなくなってしまうから、

むしろラテン・ギリシャの古典語で書いた方がよいと説くわけですね。

中世以来の、文章語・学術語としてのラテン語の位置がこの詩に端的に反映していると言えます。



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同様の危機意識は、英国の詩人 Alexander Pope(1688-1744)による次の一節にも見られます。(拙訳を付します。)


Our sons their fathers' failing language see,
And such as Chaucer is, shall Dryden be.

せがれは親父の崩れゆく言の葉を見ゆ。
チョーサー今日かくあるごとく、ドライデン明日かくならむ。



ここでは、チョーサーの英語が変わってしまってよく読めないように、

ドライデンの英語も後世読まれなくなる恐れがあると不平を述べています。

英語の歴史において、英国人自身が国語に対する劣等感を強く有していた時期があったというのは意外ですね。


(追記1)

Bacon(Novum Organum Scientiarum, 1620)や Milton(政治論争の弁)なども、ラテン語で文章をものしていました。


(追記2)

Edmund Waller および Alexander Pope による一節は R.F.Jones, The Triumph of the English Language(Stanford University Press, 1953, pp.263-4)より採りました。


(追記3)

Edmund Waller に関する記述は齋藤勇『イギリス文学史 改訂増補第五版』(研究社、1974年、pp.200-1)に基づいています。


(追記4)

R.F.Jones, The Triumph of the English Language(Stanford University Press, 1953, p.256)より引きます。(拙訳を付します。)

Ben Jonson's belief that in affecting the ancients Spenser wrote no language
(スペンサーは昔の人を気取って書いたけれども、言葉になっていなかったとベン・ジョンソンが考えていたこと)


ここでいう the ancients(昔の人)とは Chaucer のことを指します。

Edmund Spenser(?1552-99)は

「Chaucer 以後この時代までの最大詩人」(齋藤勇『イギリス文学史 改訂増補第五版』(研究社、1974年、p.85))

とされ、The Shepheardes CalenderFaerie Queene で有名な人物です。

Chaucer を尊敬し、彼の書き方で書き、古語の復活を図ったのでしたが、

この引用から、16世紀にはすでに Chaucer の頃の英語は理解されていなかったことがわかります。

なお、Ben Jonson(1572-1637)は英国の劇作家・詩人・批評家で、

齋藤勇『イギリス文学史 改訂増補第五版』(研究社、1974年、p.97)によると、

ラテン文学に精通していたので、Latin poets と同様に詩形美を重んじ、また教訓的傾向があった。そしてその特質は、第17世紀中葉には一時忘れられたが、Dryden に伝わり、ひいては古典派詩人に影響した。

とされる人物です。


posted by 石崎 陽一 at 09:26 | Comment(0) | 英語史的な説明 | 更新情報をチェックする
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