2013年06月29日

東西の類似


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山中襄太『日本語源の史的究明』(校倉書房、1978年)において、

この語源研究家は


わたしのやっていることは「暗中模索」である。そして「語源論」を主としているのであって、「系統論」を云々しているのではない。(p.31)


と断り書きをした上で、


日本語の語源を考えるのに、日本語の枠内をいくらつついてみてもそれには限度がある。なるべく「視野を広く」「射程を遠く」して多くの参考資料を集めて比較考察することが必要である。ibid.)


と述べ、

巻末に東西類似語一覧を掲載しているのですが、

そのうち、漢欧類似語のリスト(pp.209-23)を眺めているだけでも楽しめます。

ごくごく一部を挙げてみますと、


ギョウ(堯、土徳の帝)、ジョウ(壌) 英語 geo-, ギリシャ語 gē(earth)
キン(近) 英語 kin(nearness by birth)
ケン(見) 英語 ken(to see and know, view)
ゲン(元、源) 英語 gen-(birth, descent)
シン(新)、セン(鮮) 英語 cen-
ミツ(蜜) 印欧祖語 *medhu-, 英語 mead
ミョウ(猫) mew, miaow(the cry of a cat)
ム(牟、牛鳴) 英語 moo
ユウ(優、尤) ギリシャ語 eu(good, well)
ラク(酪) ラテン語 lac(milk)



といった具合。

偶然か否かを問わず、こうした対応関係は私にとって興味深く感じられた次第です。





あ、ボキャビルにも援用できそうですね。



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人類の脳や目や耳の構造が本質的にはどの人種でも同じである以上、音表象にも同じ根拠があることは容易に推測できる。基本語の語根が音表象である場合は、共通要素があるのは当然であって、そうでなければかえっておかしい。言語によって大いに異なってくるのはその後の音韻変化や合成の仕方であろう。私は人類の諸言語の一番の基底部には、共通に理解できる音表象があった場合が多いという考えに傾いている。

渡部昇一『英語語源の素描』(大修館書店、1990年、p.E)



(追記1)

風間喜代三『ことばの生活誌−インド・ヨーロッパ文化の原像へ−』(平凡社選書、1987年、p.184)でも *medhu- という形と中国語の「蜜」、日本語の「ミツ」との著しい類似性について触れられています。

(追記2)

井上義昌『英米故事伝説辞典 増補版』(冨山房、1980年)より引きます。

「幾何」という語は日本では「キカ」と読むが、中国では「ジホ」と読む。この語は中国の字音で、geo- の発音に近い文字を選んで、一方においては「幾何−いくばく−どれだけ」という点で、‘metry’(測量)の意味を持たせたものであろう。(p.263)

ギリシャ神話に Gaea [一名 Ge(大地)] という女神があり、Uranus(天)と夫婦になって万物を生んだという。すなわち Demeter = Gemeter = Ceres = Earth-mother(大母、地母)で、「万物の母」、「農業の母」である。geo-(「土地」の意味の接頭語)はこれに関係があり、多くの学術語に使われる。たとえば、geography(地理学、geo- 土地について、graphy 記載したもの)、geology(地質学、土地についての logy 学問)、geometry(幾何学)など。George も「地主」の意である。

geo- の発音はジオ、ジェオ、ゲオなどと、国によって違うが、geo- と発音も意味も同じ漢字がある。それは「壌」と「堯(ぎょう)」とである。「壌」は「つち」と読み、天壌(=天地、あめつち)、土壌(=土地、つち)、壌土(=まつち、よいつち)。壌地(=土地、国土)、霄壌(しょうじょう)(=天地、あめつち)などの語がある。「堯」は中国の昔の聖天子とされた神話的人物であるが、「万物の母」たる「大地」(Gemeter)の徳を神格化したものだろう。ということは、「堯」が「土」を三つ重ねて兀(つくえ、祭壇)の上に祭った形からできていることからもうかがわれる。
(p.258)


posted by 石崎 陽一 at 18:31 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする
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