2013年06月06日

Stratford-on-Avon という地名の語源


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England 中部は Warwickshire にある Shakespeare の生地 Stratford-on-Avon という地名を語源的に分解し、詳述してみます。


(1)strat- について


strat- はローマ式の舗装道路(Roman road)の意。

via strata(=paved way)の via(=way)が省略されたものです。

なお、strata(=paved)は sternere(=to spread, pave)という動詞の過去分詞で、

現代英語の street や現代ドイツ語の Strasse に痕跡をとどめています。

(ラテン語では修飾語としての形容詞は、ふつう、名詞の後ろに置かれるのですね。)

ローマの支配は本質的に軍事支配であり、支配地域に Roman roads の網の目を張り巡らし、

その要所要所に、ちょうどその網の糸の結び目のように castra(陣営;Roman fort)を置いて、

軍団を駐屯させたのでした。


(2)-ford について


-ford は(川などの、徒歩あるいは馬などで渡れる)浅瀬、渡り場、津の意。

現代ドイツ語の Furt に痕跡をとどめています。

なお、-ford は地名の第2要素として用いられますが、

Cranford, Crawford, Swinford, Shefford, Hartford, Horseford, Oxford など、

第1要素に動物名がくることが多いと Ekwall の地名辞典は指摘しています。(p.184)


(3)on の使い方について


on はあるものへの接触・近接(proximity)を表す前置詞で、「どこどこ附近(near, by)」の意。


(4)Avon について


Avon は Stratford を流れ Severn 川に注ぐ川の名前で、「川」を意味するケルト語に由来します。

つまり、普通名詞が固有名詞化したものです。

一般に、被征服民族の言葉は征服者の言葉に入りにくいのですが、

湖や川などの水系の名前(水名語彙)はそのまま征服者に引き継がれ易い傾向があります。


(5)この組み合わせ全体の意味について


よって、この組み合わせは、語源的に、全体として、


ローマ道路がエイヴォン川の浅瀬と交わる所(にできた町)


の意であることがわかります。

なお、Stratford-on-Avon という造語の仕方としては、

現代ドイツ語の Fankfurt am Mein と Frankfurt an der Oder,

総武線の船橋と京王線の千歳船橋、

豊後竹田と丹波竹田

などといった命名の仕方と類似していて興味深いです。

Stratford という地名がイングランド各地に存在するからこその区別なのですね。


(追記1)

Ekwall の地名辞典は Stratford について

ford by which a Roman road crossed a river

という原義を記しており、

All the Stratfords are on Roman roads.

と追記しています。(p.449)


(追記2)

夏目漱石は Oxford を語源に忠実に「牛津」と訳しましたが、たとえば茨城県新治郡出島村には「牛渡」という地名があります。


(追記3)

ローマ道路は道がカーペットの縦糸、横糸のようにつながっていたようです。


(追記4)

本記事の執筆に際し、以下の文献を参照しました。

Eilert Ekwall, The Concise Oxford Dictionary of English Place-names(4th edition;Oxford:Clarendon Press, 1960)
『英語固有名詞語源辞典』(研究社、2011年、p.151)
渡部昇一『英語の歴史』(大修館書店、1983年)


(追記4)

河川名である Avon に今なら付くはずの the が付かない点について、荒木一雄 監修・小野捷・伊藤弘之 著『近代英語の発達−英語学入門講座・第6巻−』(英潮社フェニックス、2009年、p.44)より引きます。

OE では sēo Wisle(=the Vistula, O.E. Orosius, T. i)を除いて河川名に the は付かない。この古い用法は今も Newcastle-upon-Tyne, Stratford-on-Avon などに残る。ME 初期では Layamon, Brut(?a. 1200)に the が出て来ることはあるが、一般化するのは18世紀になってからである。但し後期 ME になると外国の河川にはたいてい the が付く。


(追記5)

郡司利男『アダムのへそ』(桐原書店、1984年、p.135)より引きます。

すこしこまごまと書いたが、歴史的な研究をする場合、普通の語彙より地名のほうが、古熊で遡ることに注目しておきたかったのである。逆に言うと、物は腐るが言葉は腐らない。したがって一語をたどることによって、古い先史時代の人間の生活に、思いがけない光が当たることがある。その言葉の中でも、地名はとくに残りやすいというところがある。


posted by 石崎 陽一 at 04:34 | Comment(0) | 語源の話 | 更新情報をチェックする
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