2013年03月28日

細江逸記『英文法汎論』の源流


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『日本の英学100年 大正編』(研究社、1968年)所収、大塚高信「英文法」(pp.212-4)より備忘のため書き留めておきます。


著者は明治三十九年東京外国語学校を卒業した。英文法の科学的研究の重要性に目ざめた著者は、偶然スウィートの New English Grammar に出会い、“This book it was that first set me in the right direction which I have been following these ten years”と序文の中でいっている。(中略)おそらくスウィートを熱心に読んだ人としては、わが国では最初の数人のひとりであろう。著者の会心の説の一つである Mood 論で、直説法を「叙実法」、仮定法を「叙想法」と呼ぶにいたった動機は、思うにスウィートの Fact-mood, Thought-mood に暗示を受けたものと私は推察する。

もう一つ(中略)スウィートの影響と思われる点は「語の配置法」であろうと思う。英文法で重要な位置を占める配語法は、従来の伝統文法が、配語法の重要でないラテン語を範としたため、あまり重視されなかった。スウィートは Syntax の巻の冒頭に‘Word-order’を掲げてその重要性を強調している。これなども、細江博士に強く訴えるところがあったのではないかと思う。

スウィートのことは著者みずから言及しているが、私はスウィートもさることながら、『汎論』の組織や内容において、スウィートよりも遙かに多く影響を与えているのはアニアンズの Advanced English Syntax ではないかと思う。このアニアンズの本の初版は明治三十七年に出版されているのだから、著者が外国語学校の学生であったとき、すでに読んでいたのではないかと思う。

叙想法の相当句として“may(might, shall, should)+動詞”を「仮装叙想法」と著者が命名したのは、アニアンズの The Subjunctive has, however, been disguised, except in certain forms, in consequence of the “levelling” under identical forms of corresponding tenses of the Indicative and Subjunctive. に暗示されたのではないと否定することはできないだろう。

もう一つ、アニアンズは Predicate の形式として五つの形式をあげているが、これが『汎論』の第一公式の文から第五公式の文の原型でないといったら、あまりにも偶然な一致といわなければならぬ。ただし、このいわゆる「五文型」が、自来わが国の英語界で、圧倒的支持をうけてきたのは、アニアンズの影響というよりも、細江博士の『汎論』によるといった方が正しいように思う。さらに、『汎論』によって一般化された術語は「相当語句」(Equivalent)であろう。もっとも、この Equivalent という術語はアニアンズ専用のものではなく、イギリスの文法用語選定の委員会で決めたもので、ソンネンシャイン(Edward A. Sonnenschein)なども使っているけれども、わが国で一般化したのはアニアンズ−細江の線によっていると私は見たい。



(追記1)

なお、次の小論は、五文型の祖をアニアンズとする、如上の定説を覆す実証的研究です。推理小説を読むような面白さがあります。(次のリンクをクリック。)

5文型の源流を辿る C. T. Onions, An Advanced English Syntax(1904)を越えて.pdf


(追記2)

R.Huddleston and G.K.Pullum, The Cambridge Grammar of the English Language(Cambridge:Cambridge University Press, 2002, p.218)は five canonical constructions という名称で5文型と同じものを記述しています。


posted by 石崎 陽一 at 19:47 | Comment(0) | 印象に残ったこと | 更新情報をチェックする
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