2013年03月07日

【連載】現代標準英語における二重否定の使用回避を促した要因について(その11)



文典執筆の基本方針


「18世紀の社会情勢」の記事でみたように「明確で、かつ信頼するに足る」(definite and dependable)規則を18世紀の人々は強く求めていたのだったが、

前々回の記事で触れたようなバックグラウンドを持ったラウスは「信頼するに足る」(dependable)文法書を書くのにまさにうってつけの人物であったということができる。

彼には、書くものに然るべき権威と信頼性、説得力が付与されるのも当然と言えるような学問的・社会的背景があったのである。

マイヤーズ(L.M.Myers, 1901-)のことばを借りれば

「もし選ぶとすれば、英文法を『固定する』任務に適する男はその時代、彼を措いて他に見いだすことは困難だろう」(It would be hard to find a man of his period whose knowledhe better qualified him for the task of “ascertaining” English grammar)

というほどだった。

それは前回の記事における彼の同時代人の証言からも明らかである。「信頼するに足る」という条件は充分に満たしていたわけだ。

では、「明確な」(definite)という要請の方はどうであったか、と言えば、ラウスの文法書はこの要求をも果たしたのである。

彼の執筆方針、彼の文法書の基本的態度は、文法について規定している次の箇所において見られる。(和訳は拙訳。)

The principal design of a Grammar of any language is to teach us to express ourselves with propriety in that language;and to enbale us to judge of every phrase and form of construction, whether it be or not. The plain way of doing this is, to lay down rules, and to illustrate them by examples. But, beside shewing what is right, the matter may be further explained by pointing out what is wrong.

あらゆる言語の文法が持つ主な目的は次の通りである。自分の言わんとすることを言語を用いて自ら適切に表現することができるようにすること。そして、言い回しや構文の構造ひとつひとつについてそれが正しいのか正しくないのかの判断を自ら下せるようにすること。以上である。この目的を遂行するのに簡単な方法は、諸々の規則を定めて、その定めた規則を実例を以て示すことである。しかしその際、何が正しいかをしめるのに加えて、何が誤りかを指摘することで、問題の所在がさらに明らかになることであろう。


すなわち、ラウスの文典には全編を通じて、何が正しくて(what is right),何が誤りなのか(what is wrong)、ということが一貫して明確に示されており、文章をものする人がぶつかるような疑問点に yes-or-no 式の解答を以て明快に答える形で全体が統一されていた。

「学習者の使用向けに、また社会の最下層の人々の使用にさえ向くように、計画されて」(calculated for the use of the Learner, even of the lowest class)いたのである。

読者対象をしっかりと絞ってその要請に応えようとするこうした配慮が学習者の他、指導者も含めた使用者に受けた理由と言ってよい。


(追記1)

「もし選ぶとすれば、英文法を『固定する』任務に適する男はその時代、彼を措いて他に見いだすことは困難だろう」(It would be hard to find a man of his period whose knowledhe better qualified him for the task of “ascertaining” English grammar)という Myers の言葉は Myers(p.223)より引いた。

(追記2)

ラウスが文法について規定している箇所は Robert Lowth, A Short Introduction to English Grammar, 南雲堂英語文献翻刻シリーズ第13巻(郡司利男解説)(東京、南雲堂、1968年、p.12)より引いた。

(追記3)

「yes-or-no 式の解答」とは Myers(p.222)における “The demand was for yes-or-no answers” という文言から採った。

(追記4)

「学習者の使用向けに、また社会の最下層の人々の使用にさえ向くように、計画されて」(calculated for the use of the Learner, even of the lowest class)という文言は Lowth(p.13)より引いた。


(この項続く)



posted by 石崎 陽一 at 03:52 | Comment(0) | 連載 | 更新情報をチェックする
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