2013年01月07日

【連載】現代標準英語における二重否定の使用回避を促した要因について(その4)



二重否定を使用する話者の心理


否定語の累加によって否定の意を強調するこうした用法は、標準英語では現在、忌避されているが、ギリシャ・ラテン語、ロマンス諸語、デンマーク語、スラブ語、ハンガリー語、ひいてはバンツー語においてもみられる語法なのだという。ドイツ語では古典時代(1786-1805)までふつうであった。それは多くの言語で広く観察される現象なのである。

では、論理的には一つで充分であるはずの否定語が何度も反復して用いられるという、このような現象が生じるのは何故なのであろうか。クノレックの分析に依れば次のようである。(和訳は現筆者による。以下同様。)

... der Sprechende ist von dem Gedanken der Verneinung so erfüllt, daß die Negation sich sozusagen über den ganzen Satz erstreckt und zum Ausdruck kommt, wo nur eine Gelgenheit[Gelegenheit]sich dazu bietet. Sie negiert also zunächst mit Vorliebe das Verbum und dann außerdem noch solche Wörter, von denen ein negatives Gegenstück vorhanden ist:or−nor;either−neither u.a. Der Sprechende läßt dabei dem für die Mitteilung allein Not wendigen.

……話者の心中は否定の概念で満ち満ちているために、ここぞとばかりに否定はいわば文全体にわたって広がり、表現されるのである。それ故、まずは動詞を否定することを好み、それから、or や either などのように否定形の対が存在するような語をさらに否定するのだ。その際、話し手はその表現活動を全面的に成り行きに任せており、ただ意志の伝達に必要不可欠というだけでは満足しないのである。


ということであり、このとき、話し手の意識としては

Der Sprechende will einen negativen Satz anknpfen, er eilt dabei in seinen Gedanken voraus und wendet bereits eine negative Anknpfungspartikel an. Oder aber es handelt sich um eine Perseverationserscheinung:der schon in der Konjunktion zum Ausdruck gebrachte negative Gedanke wird im Innern des Satzes wiederholt.

話者が否定文を始める際、概念が先行し、否定的な接続詞をすでに用いている。すなわち、すでに接続詞に表された否定の概念が同じ文中で繰り返される、という保続現象が問題なのである。


つまり、昔の否定語は小さかったので聞き逃されたり見逃されやすかった。それを恐れた話者は、否定の意味を相手に充分に伝えるために否定語を結びつけ得る限りの語に附けた。その際には意識の中で持続している思考内容が関係した「先取り」(Antizipation)の心理が働いていた。

かくして、幾重にも累加された否定語は互いに打ち消し合わずに、文全体の意味は依然として否定のままという現象が生じたというわけである。話者の心理が直接に反映した表現だと言える。実際、英語においても古くは

Die negation ist ihrer Natur nach emphatisch und strebt infolgedessen danach, ihre Ausdrucksmittel zu verstärken. Da in der ursprünglichen Form ae. ic ne secge, me. I ne seye, das lautschwache ne nur ungenügend die Verneinung kennzeichnete, fügte man noch ein Verstärkungswort hinzu, nämlich nawiht, not, das schließlich die alleinige Beseichnung für die Verneinung wurde, so daß ne, seiner Funktion enthoben, schwinden konnte:aus I ne seye not wird I say not.

Um die Negation noch weiter zu verstärken, griff man schon seit dem Altenglishen zu einem andern Mittel, man drückte die Verneinung zwei- drei-, ja vierfach aus, ohne daß dadurch der Sinn verändert wurde. Auch im Mittelenglischen ist diese Art der Verneinung noch recht häufig, desgleichen im Elizabethanischen Englisch.

本質上、否定は強調的であり、それ故、それによって表現手段を強めようとするものである。古英語における ic ne secge. や中英語における I ne seye. のように原始的な形態においては、否定語 ne は音が弱く、否定の意味を明示するには不十分なので、さらに nawiht や not のような強調語が付け加えられたが、ついにはそれらが専ら否定を表す記号になってしまった。その結果 ne はその機能から解放され、消失することができたのである。つまり、I ne seye not. が I say not. になったのである。

否定の意味をより強めるためにすでに古英語以来、別の手段が用いられ、意味を変えずに、二重、三重、四重に否定が表現されていた。こうした種類の否定は中英語においてもまだかなり盛んで、エリザベス朝の英語においても同様であった。


ということであった。「くぎを一本打ち込むことより、二・三本打ち込んだ方がはるかに強いと感じて、二・三本打ち込むことと同じ原理に従って、二箇から三箇の否定語を入れた方が強いと感じられ」ていたのである。


(追記1)

否定語の累加によって否定の意を強調する語法は多くの言語で観察される現象であるとの記述は、以下の記述に基づいている。

Die doppelte Negation ist eine Erscheinung, die wir auch in anderen Sprachen finden. So im Griechischen..., im Lateinischen..., und zwar im Altlatein besonders in der Emphase, vereinzelt sogar im klassischen Latein(besonders bei Dichtern, im Gegensatz zum Englishen)und schließlich wieser häufiger im Spätlatein(unter griechischen Einflüß), im Romanischen... und im Deutschen... bis in die Zeit der Klassiker hinein. Jespersen bietet auch einige Beispiele für die doppelte Verneinung im Ungarischen und in manchen Negersprachen.... Desgleichen ist sie im Slawischen vorhanden....(Knorrek, p.32)

ちなみに、ドイツ語における二重否定の消失も学校教師の手によるという(This[cumulative negation]was continued in later centuries, though as in English it was counteracted by schoolmasters.)(Jespersen(1917, p.66))。

(追記2)

クノレックの分析は上から順に Knorrek(pp.33, 34, 34fn., 32)より引いた。

(追記3)

くぎの比喩は田中菊雄『英語広文典』(東京、白水社、1953年、p.323fn.)より引いた。


(この項続く)



posted by 石崎 陽一 at 14:13 | Comment(0) | 連載 | 更新情報をチェックする
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