2013年01月06日

【連載】現代標準英語における二重否定の使用回避を促した要因について(その3)



二重否定の定義と分類


前2回の記事では「二重否定」と「累加否定」とを混ぜて使っていた。以後こうした混用を避け、その使用に統一を図るために、ここで整理をしておく。

否定語が重ねられる場合、

「2箇の否定語が同一概念あるいは同一語について用いられると、相殺して肯定となる」(Whenever two negatives really refer to the same idea or word ... the result is inevitably positive;)

のだけれども、それに対して

「2箇(以上)の否定語がそれぞれ別の語について使われた場合は互いに影響を与えることはなく、依然として否定のままである可能性が大である」(... if two[or more than two]negatives are attached to different words, they have not the same effect upon one another, and the total result, therefore, may very well be negative.)。

一般にはこの両者とも二重否定と言われているが、

否定語が幾重に加えられても結局は否定のままという後者のようなケースは、三重や四重に否定されることがあるので、より正確に累加否定(cumulative negation)と呼ばれることもある。

これはイェスペルセン(O. Jespersen, 1860-1943)によって5つに下位区分されている。

このうち、クノレックの調査の対象とされており、その論考において紙幅の費やされているのは主として、次の2つのケースである。(和訳は現筆者による。以下同様。)

(1)二重牽引(double attraction)。

... the two tendencies, one to place the negative with the verb as nexal negative, and the other to amalgamate a negative element with some word capable of receiving a negative prefix. ... those instances in which both are satisfied at once ... the result being sentences with double, or treble or quadruple, negation.

……文否定として否定語を動詞に結びつけようとする傾向と、否定の接頭辞を取り得る語に否定の要素をくっつけようとする傾向との二つの傾向。……この両者ともに同時に満たされていて、その結果、文が二重、三重、四重否定となるような例。


(2)再叙否定(resumptive negation)。

... after a negative sentence has been completed, something is added in a negative form with the obvious result that the negative effect is heightened.

否定文が完結した後にさらに否定形をしたものが加えられて、その結果、明らかに否定の効果が高められる(ような例)。


つまり、実質的には「二重否定」と言っても「累加否定」と言っても指している内容は同じことなのである。

そこで本連載ではクノレックに従い、

同一の文中で否定語が重ねられて加えられ、否定が繰り返される現象を指す語

として「二重否定」を採用することとし、

その中でも特に、

イェスペルセンのいわゆる「二重牽引」か「再叙否定」かの、どちらかのケースを指す

のに用いることにする。


(追記1)

否定語が重ねられた場合の結果についての記述は Otto Jespersen, The Philosophy of Grammar(London:George Allen&Unwin, 1951, p.332)に基づいている。尚、同ページによると、この二重否定の形は単なる肯定の形に比べて話者の躊躇を表し、幾分弱い感じを与える(... the détour through the two mutually destructive negatives weakens the mental energy of the listener and implies on the part of the speaker a certain hesitation...)とのことである。

(追記2)

「一般にはこの両者とも二重否定と言われているが」という箇所は市河三喜編『英語学辞典』(東京、研究社、1940年、p.322)における「三重以上の否定も普通 double nagation の中に含ませてゐる」という記述に基づく。

(追記3)

イェスペルセンの下位区分についての記述は Otto Jespersen, Negation in English and Other Languages(Copenhagen:Høst&Søn, 1917, pp.64-80)に基づいている。

尚、本連載では取り扱わない残り三種のうちのひとつに「並列否定」(paratactive negation)がある。「deny, forbid, hinder, doubt などのような否定的な意味を持つ動詞に属する節内に否定語が置かれる」(a negative is placed in a clause dependent on a verb of negative import like‘deny, forbid, hinder, doubt’.)(Ibid., p.75)ような例であるが、この類の二重否定についてクノレックは次のようなコメントをしている(Knorrek, p.36)。

In diesen Sätzen, die wohl kaum durch die Emphase hervorgerufen sind, sehen wir einen psychologischen Lapsus, ein Nachlassen in der Konzentration des Sprechenden, vielleicht lediglich eine Konstruktionsmischung. Diese Art der doppelten Verneinung ist zu keiner Zeit ein Sprachgebrauch gewesen, der wie einst unsere‘double attraction’auch in der Literatursprache als „richtig“ empfunden wurde, sie ist an keine Epoche gebunden, sondern tritt, da sie allein in einer Schwäche, einer Flüchtigkeit des menschlichen Denkens begründet liegt, zu allen Zeiten auf, auch in der Sprache von heute, wie die Beispiele bei Jespersen bezeugen.

恐らくは強調の目的ゆえに生じたのではないようなこうした文の中に、心理的なちょっとしたミス、すなわち話者の集中力の弱まりを看取する。ひょっとしたらただ単に構造が混ざったに過ぎないものを見いだす。この類の二重否定は決して慣用語法でなかった。かつては「二重牽引」が文芸のことばにおいて「正しい」と感ぜられたようにいかなる時期にも拘束されることなく現れるような慣用語法では決してなかったのである。イェスペルセンの例が示しているように、いつの時代でも、今日の言語でも、それはただある種の弱み、つまり人間の思考の軽率さに理由があるからである。


つまり、この並列否定は無目的な「否定の観念のトートロジー」(大塚隆信『英文法論考』(東京、研究社、1938年、p.286))に過ぎないということで、彼女の調査対象から除外されている。

また、この他の2つのうち、1つはデンマーク語に関するものであり(Jespersen(1917, p.77))、もう1つは「否定文における混乱の雑多な例」(heterogeneous instances of confusion in negative sentences)(Ibid., p.78)である。

(追記4)

調査対象について、クノレックは「neither, never, nor, no, not といった、否定の意味の副詞及び接続詞が複数回用いられているにも関わらず、文意が肯定になっていないような場合に限定したいと思う」(Wir beschränken uns ... suf solche Fälle, in denen die Negationsadverbian und -konjunktionen neither, never, nor, no, not mehrfach gesetzt werden, ohne daß dadurch der Satz positiv wird.)(Knorrek, p.24)と述べている。

(追記5)

「二重牽引」に関する記述は Jespersen(1917, p.64)に、「再叙否定」に関する記述は(Ibid., p. 72)に、それぞれ基づいている。


(この項続く)



posted by 石崎 陽一 at 08:22 | Comment(0) | 連載 | 更新情報をチェックする
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