2013年01月05日

【連載】現代標準英語における二重否定の使用回避を促した要因について(その2)



鮮明に記憶された分だけ、この語法が標準英語から姿を消した時期と消失の原因とに対する興味も深かった。

兼ねてから抱いていたこの興味を満たすため、現筆者はまず

初版の出版以来半世紀を優に超える

ものの

現在なお標準的英語史として揺るぎない地位を保っている

とされるボー(A. C. Baugh, 1891-1981)の A History of the English Language をひもといてみたところ、次のことがわかった。

すなわち、

(1)二重否定の糾弾は18世紀に始まったこと。

そして、

(2)その非難はラウス(Robert Lowth, 1710-87)という文法家の掲げた二重否定に関する規則に端を発しており、それ以後、現在に至ってもこの定めは有効であること。

したがって、

(3)ラウスの文典が二重否定の消失に一枚噛んでおり、その直接的な原因と考えられること。

ところが、である。

累加否定の問題に関して詳しく取り扱っているクノレック(Marianne Knorrek)の論文 Der Einfluß des Rationalismus auf die englische Sprache の第2章 Syntaktische Erscheinungen des 17. und 18. Jahrhunderts.(pp.24-38)に拠ると、ラウス文典の及ぼした作用といったものは全く認められていないのだ。

この論考は詩、小説、戯曲から日記、書簡、説教、そして知的散文に至る様々な文学ジャンルをあまねく渉猟した実証的研究であるが、それ故に、ラウスの文法書に示された一条の規則の影響を否定するその語気には抗しがたい説得力があるのである。

では、彼の著した A Short Introduction to English Grammar:with Critical Notes(1762)はクノレックの指摘するように、本当に、二重否定の消失に何らの関わりもなかったと言い切れるのだろうか。

本連載の目的はラウスの文典が現代標準英語における二重否定の使用回避に及ぼした影響を再評価することにある。

そこで、論の順序として、まずは女史の論旨をたどることから始めたい。


(追記1)

ボーの英語史についての評言は大泉昭夫編『英語史・歴史英語学 文献解題書誌と文献目録書誌』(英語学文献解題第3巻、東京、研究社、1997年、p.11)より引いた。

(追記2)

ボーの指摘の要約は Albert C. Baugh and Thomas Cable, A History of the English Language, 4th ed.(London:Routledge, 1993, p.274)における次の箇所に基づいている。

... the eighteenth century is responsible for the condemnation of the double negative. Lowth stated the rule that we are now bound by:‘Two negatives in English destroy one another, or are equivalent to an Affirmative.’

(追記3)

上述したクノレック女史の論文は Der Einfluß des Rationalismus auf die englische Sprache:Beiträge zur Entwicklungsgeschichte der englischen Syntax im 17. und 18. Jahrhundert. Sprache und Kultur der germanischen und romanischen Völker. Anglistische Reihe Band XXX(Breslau:Priebatsch, 1938)である。

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(Click the pic to enlarge!)


(この項続く)



posted by 石崎 陽一 at 18:32 | Comment(0) | 連載 | 更新情報をチェックする
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