2012年11月18日

『英文法解説』(金子書房)の各版を比較する


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江川泰一郎『英文法解説』(金子書房、1991年)のはしがきにおいて、同書は

1953年(昭和28年)に発行されて以来、1964年の改訂を経て、このたび再び全面的に書き直されて世に出ることになった。初版からざっと40年、この種の英文法書としては他に類のまれなロングセラーと言えよう。(中略)この本は類書中のユニークな存在として注目を集めてきた。そうした注目に値する内容をさらに盛り込むために努力した(pp.@-A)

と述べられていますが、まさにこの本は日本の学習者および教授者のための英文法の決定版と言えます。

安西徹雄先生も『翻訳英文法』(バベル・プレス、1986年)において

学校文法の枠を一歩踏み越えて、かなり突っ込んだ記述も随所に見られるし、日本語との比較などにも注意がはらわれている。(p.19)

と述べておられるように、

英米の学者の説を鵜呑みにせず、日本人の英語学習者の立場から見て、英文法の問題点がどこにあるかを考慮しつつ、

歯切れよく、手際よく著者自身の考え方を述べている点が素晴らしいと感じます。

学説を援用する場合も出典や頁数などを明記して手堅い。

例えば、

以上、(1)−(2)を通じて be going to と will の相違を指摘したが、どちらを使ってもほとんど差がない場合もあることを再度述べておこう。現に Thomson(PEG, §206 B)も、その趣旨のことを言っている。しかし、われわれとしてはやはり両者の基本的な相違は心得ておくべきであろう。(改訂三版;p.223)

論理的にはおかしいが、この種の文に目くじらを立てるのは保守的なやかましい文法家だけであろう。(改訂三版;p.183)

といった具合。

こうした態度を、私は常にお手本として活かそうと心がけてきました。

ここしばらくは『英文法解説』の初版(1953年版)と改訂新版(1964年版)、現行の改訂三版(1991年版)とで、各版の比較をしています。

その過程で気がついた改訂時における工夫を、今回は簡単に紹介したいと思います。


まず、例文の訳文にはなるべく自然な日本語を使うようにという配慮が全体に行き届いていることが挙げられます。

例えば、

You're always getting invited out. No one ever invites me to any place.

という例文に対する試訳をみても

1964年版
あなたはいつも招待で出かけていいわね。わたしは誰もどこへも招いてくれないわ。(p.231)

1991年版
あなたはいつも招待で出かけているのね[うらやましいわ]。私にはだれもどこへも声をかけてくれないのよ。(p.228)

といったように、旧版の英文訳が新版ではずっと自然な口語に改められているのです。

このように「英文解釈・英作文・英文法の三位一体を意図して書かれた」(p.B)その意図が、随所に具現化されていることに気がつきます。

ちなみに、初版ではどうであったかを振り返ってみますと、always を伴う例としては

1953年版
You are always finding fault with me.
(君は僕のあらさがしばかりしている[からいやになる])
(p.204)

が挙げられているばかりでした。

これに限らず、初版では総じて説明に用いられる例文が一文単位であると言えるでしょう。

それが改訂新版、改訂三版と revise され、複数のセンテンスを積み上げてより具体的な文脈を作り出す傾向が強まっていることが看取されます。


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上に引いた例文が含まれる項目に対する江川先生の説明を比べてみます。

初版では「進行時制」の項目のもと

1953年版
B.動作・運動の反復、又は転じて行為者の性質・習慣−always, constantly, repeatedly などの副詞を伴うことが多い。

C.文に感情的色彩を加えることがある。
(p.204)

と枝分かれで記され、項目末尾に付された解説でもさらなる詳細が触れられることはありません。

ちなみに、解説では「進行形“be+-ing”の起源」について紙幅が使われていますが、この記述は以降の版では削除されてしまいました。

改訂新版では「現在進行形の基本用法」の項目において

1964年版
動作の反復 always, constantly, repeatedly などの副詞を伴うことが多く、動作の反復が転じて行為者の習慣を表すこともある。(p.230)

と述べられ、

新たに立てられた「注意すべき現在進行形」の項目では、「叙述に感情的色彩が加わる場合」として

反復される動作に対して話者の非難・嫌悪・軽べつ・困惑・賞賛などの気持が加わるのである。そのいずれであるかは前後関係によるが、動作が何回も繰り返されると感情的に反発(共感)を感ずることを表すものである。(pp.230-1)

と述べられています。

改訂三版では「注意すべき現在進行形」の項目において小項目が統合され、「動作の反復を強調する場合」と一括して

1991年版
always, constantly, continually, forever, all the time などの副詞語句を伴って、動作がしばしば繰り返されることを強調する。話者の非難・困惑・賞賛などの感情的色彩が加わることが多い。(p.228)

と説かれているほか

主語が I/we の場合は(意識しなければしないはずだから)無意識でする行為になる(p.228)

ときめの細かい指摘も盛り込まれています。

また、項目末尾に付されている解説の項では

感情的色彩(emotional coloring)の種類も文脈によるが、実際には非難の気持ちを含む場合が多い。しばしば繰り返される行為に対しては、共感を持つよりも反発を感じるほうが多いからであろう。(p.229)

という興味深い指摘もなされています。

改訂三版のはしがきに

この改訂版の執筆には3年余りを要した。その後の過程を含めると、完成までに4年を費やしたことになる。この種の本としては長い年月をかけたが、私のこの本に対する意気込みがそれだけ大きかったことを理解していただければ幸いである。(p.A)

とありますが、この一項目を切り取っても江川先生の意気込みが存分に伝わってくると感じています。


(追記1)

伊村元道『日本の英語教育200年』(大修館書店、2003年、pp.27-8)に「科学文法と学校文法の橋渡し」という小見出しの下、『英文法解説』(金子書房)の版ごとの相違点・特色の要点が述べられています。そこでは、改訂新版の出版当時、大学入試では文法問題が大流行で、改訂新版がいちばん受験色が濃いとされています。

(追記2)

改訂新版の出版以降に現れた海外の文法・語法の関連書籍の内容を消化吸収した記述が改訂3版に盛り込まれていますが、たとえば、仮定法現在の項にそれが顕著にみられます。


posted by 石崎 陽一 at 12:05 | Comment(0) | 愛用のレファレンス類 | 更新情報をチェックする
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