2012年11月16日

不規則動詞の「不規則」の意味


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現代英語において、write-wrote-written などと活用する動詞は不規則動詞と呼ばれます。

今回はこの「不規則」の意味を英語史的に考えてみたいと思います。


古英語(Old English, 450-1100)の動詞は過去形と過去分詞の作り方によって大きく4種類に分類されます。

強変化動詞、弱変化動詞、過去現在動詞、不規則動詞の4つです。

Charles C. Fries, American English Grammar(New York:Appleton-Century-Crofts, 1940, pp.60-1)によれば、

このうち、強変化動詞は約300個あり、弱変化動詞が動詞全体の約3分の2を占めます。

強変化動詞とは動詞の語幹の母音を変えることによって過去形と過去分詞を作るものであり、

弱変化動詞は歯茎閉鎖音([d]または[t])の添加による語尾変化で過去形と過去分詞を作るものです。

強変化動詞の母音の交替のさせ方も7つの類型がありましたから、

強変化動詞も弱変化動詞も、それぞれそれなりに規則的な変化形をもつ動詞だったのですね。

(ちなみに、残りの少数が過去現在動詞と不規則動詞です。過去現在動詞は現代英語の法助動詞に、不規則動詞は現代英語のbe動詞に対応しています。)


英語史の流れにおいて、強変化動詞の半数近くがやがて弱変化動詞に移行し、弱変化動詞の変化形の作り方([+-ed]型)が広く行われるようになりました。

特に、中英語(Middle English, 1100-1500)期に大量の外来語が入り出すと外来の動詞の変化はたいていこの型で間に合わされました。

そんなことに促され、元来は古英語の弱変化と呼ばれた型の変化形が強者となり、在来の変化形もこの変化形に引き寄せられ、同化しました。

Fries の『上掲書』によれば、

古英語期には300以上の強変化動詞がありましたが、そのうち約3分の1は廃用となり、約3分の1は弱変化動詞(規則動詞)に変わり、約60の強変化動詞は不規則動詞として現代まで生き残っているとのことです。

つまり、古英語の強変化動詞は現代英語の不規則動詞に、弱変化動詞は規則動詞にそれぞれ対応しているというわけですね。

したがって、英語史的に言えば、

規則動詞の「規則」とは多数派になった変化形ということであり、不規則動詞の「不規則」とは元来はそれなりに規則変化だったその他のタイプの変化の残党で、少数派という意味です。

動詞の活用方式もまた、他の品詞の場合と同じく、規則化という大きな流れに沿って変化してきました。


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このように、一つの強力な変化形のタイプに、他のタイプのものが「右に倣え」する現象を類推(analogy)と呼びます。

今日でも子どもが He went there. と言うべきところに *goed を使うときに感じられる現象です。

そしてこの類推現象は、一般的に使用頻度の少ないものに起こりやすく、絶えず使われているものには起こりにくいと言えます。

不規則動詞に日常語が多いのは一つにはそのためです。

日常頻繁に用いられるため、よく親しまれ、いわば根の生えたように定着し、容易には代替されない存在になっているのです。

そんなこんなで、同一化の傾向に流されずに今日まで生き残ってきたと考えられています。


(追記1)

think, bring, buy, seek なども今でこそ不規則動詞表に入れられて辞書の巻末につけられていますが、いずれも古英語時代には弱変化第一クラスの変種として分類されており、元来はそれなりに規則的なものでした。特に古英語における弱変化は、現代英語の規則変化の基になるのでしたから、活用に対する規則性が今でも認められるのも、当然と言えば当然と言えるでしょう。


(追記2)

本記事の執筆にあたり以下の文献を参照しました。

Charles C. Fries, American English Grammar(New York:Appleton-Century-Crofts, 1940)
市河三喜『古代中世英語初歩』(研究社、1963年)
宇賀治正朋『英語史』(開拓社、2000年)
宇佐見邦雄『古英語文法研究』(学習院大学、1992年)
下瀬三千郎 古賀允洋 伊藤弘之『古英語入門』(大学書林、1990年)
橋本功『英語史入門』(慶應義塾出版会、2005年)
渡部昇一『英語の歴史』(大修館書店、1983年)


(追記3)

郡司利男『アダムのへそ』(桐原書店、1984年、pp.111-2)より引きます。

いずれの世代にも若者の時代があり、ことばが変化していく契機の多くは若者にある、と言ってよいであろう。ただし、若者のことばがすべて、その言語に正当な地位を与えられるとはかぎらない。多くは一過性の異形に終わってしまう。英・米の子供の多くが、外でけんかをして帰ってくると、はじめは fight(けんかする)の過去形として fighted を口にするが、たちどころに母親に fought と訂正される。この語は比較的頻度が高いから、まだ類推の力に抗して強変化〔不規則〕動詞のままであるが、英語の歴史は一貫して強変化動詞消滅の歴史である。

英・米の子供がはじめ fighted を口にするのが、現代英語のほとんどの動詞が弱変化( -ed をつける)であるところからくる類推であり、子供たちになにか変化を求める意図があるわけではない。



(追記4)

中島文雄 編『英文法辞典』(河出書房、1955年)は conjugation の項(pp.99-104)にも詳述があります。



posted by 石崎 陽一 at 05:34 | Comment(0) | 英語史的な説明 | 更新情報をチェックする
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