2012年10月07日

as you like it


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英語の as you like it という言い方を、フランス語の s'il vous plaît やドイツ語の wenn es Ihnen gefällt と比較しながら英語史的に説明したいと思います。

上例におけるフランス語の plaît(<plaire)、ドイツ語の gefällt(<gefallen)という動詞はともに与格支配で「気に入る」の意味であり、vous, Ihnen は両者とも与格で「あなたにとって」の意味です。

そして英語の like という動詞も、元来は please(気に入る)の意味で与格支配であり、「何々好む」という対格支配ではありませんでした。

つまり、as you like it は as it like you(あなたにとって気に入るように)というのが本来の語順なのでした。

(like は歴史的に非人称動詞なので、この it は非人称の it であり、ほとんど意味をもたないと考えられています。)

古くは従属節(ここでは as 節)中では動詞は仮定法現在、つまり動詞の原形が用いられており likes とならなかったことも一因となって、本来は与格の you が主格のように感じられるに至りました。

渡部昇一『英語の歴史』(大修館書店、1983年、pp.88-9)によると、

さらにこの表現が Shakespeare の劇の題名として普及し、のちに熟語的表現として定着すると、この場合の you は主格で it は like に支配される対格、という認識が確固たるものとなったとされています。


(追記1)

関連記事はこちら ➜ 代名詞 you について


(追記2)

対格というのは今で言う目的格だと考えてください。動詞や前置詞の直接目的語として使う際の形です。与格も今で言う目的格に相当しますが、こちらは動詞の間接目的語として使う際の形です。


(追記3)

非人称の ‘it’(impersonal ‘it’)とは、非人称動詞の主語として用いられる it をいいます。

非人称動詞(impersonal verb)とは、主語を伴わない、またはほとんど意味のない非人称の ‘it’(impersonal ‘it’)を主語とする動詞をいいます。

非人称の ‘it’ は特に何かを指すことなく、形式的に主語として機能しているに過ぎず、動詞は常に3人称単数形が対応します。

よって、非人称というときの人称は、文法でいう人称ではなく、特定のもの、とくに人間を意味する語を主語とするものと解すればよいでしょう。

以上、清水護編『英文法辞典』(培風館、1965年、pp.316-7)に依拠してまとめました。


(追記4)

大塚高信編『英語慣用法辞典』(三省堂、1961年)の‘mutual’の項(p.723)によると、our common friend より our mutual friend の方が普通に用いられるのは C.Dickens の長編小説の題名 Our Mutual Friend(1864-5)に助長されたことが一因とされます。


posted by 石崎 陽一 at 19:25 | Comment(0) | 英語史的な説明 | 更新情報をチェックする
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