2012年10月02日

sea と see は同一発音なのに綴字が異なるわけ


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sea と see は現代英語で同一発音でありながら、綴字が異なります。

これはなぜでしょうか?

今回はこの疑問に、英語史的に答えたいと思います。


英語の歴史は一般に3つの時代に分けられます。

そのうち、1100年頃から1500年頃までの英語を指して中英語(Middle English)と呼んでいます。

中英語期には close e [eː] と open e [ɛː] の2種類の “long e” が存在していました。

綴字においてこの2種は区別されていなかったのですが、漸次これを区別しようとする傾向が生じました。

16世紀には、揺れ(fluctuation)はあったものの、close e [eː] に対しては主として<ee>を使い、open e [ɛː] には<ea>を用いるという習慣が概ね確立しました。

つまり裏を返せば、

現代英語で<ee>と綴られているのは原則として中英語期の close e [eː] であり、<ea>と綴られているのは中英語期の open e [ɛː] だったと考えられる

わけです。

そして近代英語初期以後に生じた大母音推移において [eː] の方がいち早く [iː] になりましたが、[ɛː] の方も遅れて [iː] となり [eː] から来た [iː] と同一音となったため、現在では発音上の区別がなくなりました。

その一方で古い<ea>や<ee>の綴字は残ったので、同一発音でありながら綴字が異なることになったという次第です。


(追記1)

vowel shift(母音推移)について、『研究社英語学辞典』(研究社、1940年、p.1071)は次のように説明しています。(漢字は新字体に、仮名は現代仮名遣いに改めてあります。)

ある言語の歴史的過程に於いて母音が他の母音に変化することをいう。(中略)英語の母音推移の中、ME の長母音の調音位置が ModE 初期以後次第に狭い母音(close vowel)の方向(母音図表では上の方向)に移り、遂に或るものは二重母音化したことを、特に“The Great Vowel Shift”と呼ぶことがある。

(追記2)

本記事の執筆にあたり、以下の文献を参照しました。

小林智賀平『英語学概論』(東京堂、1955年、p.79)
中島文雄『英語発達史』(岩波書店、1951年、pp.101-2)


posted by 石崎 陽一 at 07:07 | Comment(2) | 英語史的な説明 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
英語関連の記事には、しろうとゆえ、なかなかコメントできないのですが、これは興味深い内容です。
国語史に同じようなことが、ありそうな気がしますね(むかし新村出のエッセイで、読んだことがあったような気がします)。いっとき日葡辞書を買って、手元に置いてみようかと、血迷ったことがあった過去を思い出しました。
Posted by 佐藤千秋@橘高校 at 2012年10月03日 10:09
千秋先生。コメントをありがとうございます。橋本進吉『古代国語の音韻に就いて 他二篇』(岩波文庫、1980年)などにも記述が散見されますね。大変興味深いです。新村出の本は『語源漫筆』(?)だったか、これは読んだことがあります。まずはこのエッセイを読み直してみます^^
Posted by 石崎 陽一 at 2012年10月04日 06:03
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