2012年01月10日

中英語の世界を少しだけ


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次の引用はチョーサー(c.1343-1400)のカンタベリー物語、総序の詩からの一節です。

皆さんも一緒に読んでみませんか。

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And specially from euery shires ende
Of Engelond to Caunterbury they wende,
The hooly blisful martir for to seke,
That hem hath holpen whan that they were seeke.

(ll.15-18)
(逐語訳)
そして殊に州の隅々から
英国の カンタベリーへと彼らは赴く
聖なる恵み深き殉教者を求めて
彼らを助けてくれた 病んでいた時に

(西脇順三郎訳)
とくにイギリスでは、どの州のはてからも、カンタベリの巡礼を思いたち、病気をいやしてくだされた、聖トマスの参詣に出かけるのだ。

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いかがでしょう。今から600年ほど前の英語ですが、意外と読めることに驚かれたのではないでしょうか。

このように2行ずつ脚韻を踏んでまとまっていく詩を heroic couplet と言います。

では、以下に行単位で少し細かく見ていくことにしますが、特に現代英語との絡みに注目してみます。

15-16行目
And specially from euery shires ende
Of Engelond
■ euery は現代英語の every です。vはuと綴られていたのですね。今ではwという文字の読み方に「ダブルu」として残るのみです。

■ euery shires は現代英語の every shire's(of every shire)です。「名詞の所有格」は「of +名詞」に置き換えられます。

■ よって、euery shires ende of Engelond は the end of every shire of England と読むことができます。

16行目
to Caunterbury they wende,
■ wende は3人称複数現在の形 wenden からnが脱落したもの。

ちなみに、現代英語の go の過去形 went はこの動詞の過去形から来ています。

■ to Caunterbury they wende は they go to Canterbury ということです。リズムを整えるために語順が変更されています。

17行目
The hooly blisful martir for to seke,
■ for to は現代英語の in order to に相当します。seke は seek ですが、ここでは visit くらいの意味にとっておきます。

■ the hooly blisful martir は the holy blessed martyr ということで、Thomas à Becket(1118-70)のことを指していると考えられています。

Thomas à Becket はカンタベリーの大僧正。時の英国王 Henry U と合わず、ついに刺客のために寺院の祭壇の前で殺害されました。聖徒に列して St. Becket と称されています。

■ the hooly blisful martir for to seke は in order to visit St. Becket ということです。ここでもリズムを整えるために語順が変更されています。

18行目
That hem hath holpen whan that they were seeke.
■ 行頭の that は the hooly blisful martir を先行詞とする関係代名詞です。

■ hem hath holpen は has helped them ということ。チョーサーは主格には they を使っていましたが、目的格には hem という th- のない形を使っていました。

なお、目的格の hem は現代英語でも 'em という形で残っています。600年も前の口調でずっと残っているわけですね。

■ whan that の that は接続詞の後に置かれる、意味のない置き字。この頃、リズムを整えるために挿入されていました。

■ seeke は現代英語の sick です。

■ that hem hath holpen whan that they were seeke は who has helped them when they were sick ということです。


(追記1)

西脇順三郎氏の訳は『カンタベリ物語(上)』(ちくま文庫、pp.7-8)から採りました。

(追記2)

大塚高信『シェイクスピア及聖書の英語』(研究社、1967年、p.143)より引用します。(なお、seesaa ブログの仕様上、漢字は新字体に改めてあります。)

元来 infinitive は目的を表す以外に多くの用法があったために目的を示す時には、特に“to”という前置詞をつけたのであったが、“to”をつけた infinitive が目的以外の場合にも使用せられることが多くなった。そこで、更に“for”を付して目的の観念を判然とさせる工夫が行われた。しかしこの“for to(go)”も、“to(go)”と同じように、目的以外の場合に使用せられる運命の道を辿り、前置詞の皆無な形(go)と“to”のついた形(to go)と“for to”のついた形(for to go)は、全く同じような場合に用いられることになった。チョーサーなどの中世英語にはこの最後の形が非常に多い。

(追記3)

『特製版 英文法シリーズ 第二集』(研究社、1965年、p.1775)より、“for to”のついた形の出自に関する言及を引用します。

これは現代フランス語で Je suis allé pour acheter du pain(=I went for[=to]buy some bread)と言うときの pour の古い形、当時の Norman French の por にまねて作られたものだと言われている。


posted by 石崎 陽一 at 00:45 | Comment(2) | 古い英語の世界 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
中英語の日本語の参考書が何かありましたら、教えてください。
Posted by 秋葉 at 2015年10月24日 21:52
秋葉様。ご連絡ありがとうございました。古英語も、中英語も、発音や文法はできるだけ簡単に片づけ、少しでも多くテキストを読むのがよいと存じます。取り組み易さからしますと次の2冊をお勧めします。ともに実際の texts が現代英語訳と丁寧な注釈を添えて掲載されており有益です。

● 市河三喜・松浪有『古英語・中英語初歩』(研究社出版、1986年)

●市河三喜『古代中世英語初歩』(研究社出版、1955年)

前者は後者の改訂版ですが、両者とも特色があり、双方ともお目を通されるとよいでしょう。さらに詳しくは次をご参照ください。

●水鳥喜喬・米倉綽『中英語の初歩』(英潮社、1997年)
Posted by 石崎 陽一 at 2015年10月25日 11:42
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