2011年05月25日

代名詞 you について


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このカテゴリーでは、英語史による説明で、現代英語を理解するのに役立つ点を取り上げます。


先日の関東支部・勉強会にてある先生と話をしていたときに上った話題に、

you は単数にも複数にも用いられ、主格にも目的格にも用いられます。どうしてこんなことになったのでしょうか。

という問いがありました。

そこで、今回は you が単複同形、主格・目的格同形になったプロセスを英語史的に説明したいと思います。


まず、二人称の単数と複数が同形になったプロセスから説明します。

中英語(Middle English)末期の二人称代名詞は、

単数は(主格 thou, 所有格 thy, 目的格 thee)
複数は(主格 ye, 所有格 your, 目的格 you)

と区別して用いられていましたがやがて別の区別が現れてきました。

すなわち、

単数形は親しい者の間や子供や目下の者に話しかけるときなど、
くだけた言い方をする形として用いられ、

複数形は目上の者に話しかけるとき、敬意を表す丁寧な形として用いられるようになったのです。(敬語複数と呼びます。)

こうした敬語法的習慣は、14世紀初頭までにほぼ確立していました。

やがてこの慣行が一般化して誰に対しても複数形を使うのが丁寧であると感じられるようになり、複数形が単数形を駆逐して、複数にも単数にも用いられるようになったという次第。

これが二人称の単数と複数が同形になったプロセスです。


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次に、主格の ye を押しのけて you が主格にも使われ出したことを説明します。

ye, you の両者とも強勢のないことが多く、しばしば弱く発音されたため、主格と目的格が混同される傾向が生じていました。

また、Shakespeare の喜劇にAs You Like It という題名の作品がありますが、この場合の you は元来は目的格なのに主格のように感じられます。

この表現が普及し、後に熟語的表現として定着すると、この認識が確固たるものになりました。

こうしたことに促進されて、混乱を避けるためにも、本来は複数・目的格だった you が ye の代わりに使われ始めたという次第。

これが主格の ye を押しのけて you が主格にも使われ始めたプロセスです。


かくして、現在では you は単複同形、しかも主格・目的格同形になったと考えられています。


(追記1)

英語の歴史は一般に3つの時代に分けられます。そのうち、1100年頃から1500年頃までの英語を指して中英語(Middle English)と呼んでいます。

(追記2)

「やがてこの慣行が一般化して誰に対しても複数形を使うのが丁寧であると感じられるようになり」の件に関して、中尾俊夫氏は「どちらの形を使うべきかという心理的負担のため、あらゆる場合に無難な複数形を用いるようになった」という説明をしておられます。

(追記3)

本記事の執筆に際して次の文献を参照しました。

渡部昇一『英語の歴史』
(大修館書店、1983年、pp.87-89)

中尾俊夫『英語の歴史』
(講談社現代新書、1989年、pp.154-155)


posted by 石崎 陽一 at 11:34 | Comment(0) | 英語史的な説明 | 更新情報をチェックする
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