2010年10月26日

プロ意識を持て!


採点がひと段落して書斎の整理をしていたら、
十数年前受けた渡部昇一先生の授業ノートが出てきました。

懐かしさのあまり、整理の手を休めてパラパラとページを繰って
みて、先生の授業のことを思い出しました。


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渡部先生の講義は知的刺激に満ちていました。

例えば、ヨーロッパの近代は、ルネサンスと宗教改革という二大運動で始まるわけですが、それぞれの特徴を鮮やかに描写なさったのが印象的でした。

ルネサンスは、ヒューマニズムを生み、人間中心の水平志向であり、言語的には外来語を取り入れることに積極的で、宗教的にはカトリック、地理的には南欧的で、暖流のごときである。

宗教改革は、ピュアリズムを生み、神あるいは聖書中心の垂直志向であり、言語的には母国語主義で、宗教的にはプロテスタント、地理的には北欧的で、寒流のごときである。

そして、エリザベス朝のイギリスは、その暖流と寒流がぶつかり合った豊かな漁場のごときであって、シェイクスピアという大魚が獲れたのである。

そういうことを言われるわけです。

ルネサンスが水平志向で、ずっと水平に見つめているから、ヨーロッパを出てはるか異国の地にまで船出しようという衝動が起きる。

そうしてずっと水平に見ていたら、アメリカ大陸が見えてくるのであり、それが地理上の拡大である。

何か、ヨーロッパ近代の本質がそれだけでわかったような気持ちにさせてもらいました。

私は毎回の授業を楽しみに、授業では身を乗り出すようにして、目を輝かせて聴き入り、お話を聴くたびに自分が賢くなったように感じたものでした。


DSCN0421.JPG


授業ノートの欄外にメモが書きつけてあるのに気づきました。

先生が授業を離れ、または授業の内容を発展させてお話しになった
事柄です。

あるページには古書店で見つけたら是非買うべし、として

徳富蘇峰『近世日本国民史』、岩下壮一『カトリックの思想』、
アンドレ・モロワ『英国史』などの書名が書いてあります。

また、その中に「プロ意識を持て!」と大書したページがありました。

たしかこれは、ある学生の不勉強を注意されたことからクラス全員におっしゃられた言葉だったと思います。

英語ができる人はいくらでもいる。君たちは将来英語で飯を食うのだから、プロとして他学部の学生とははっきり実力の差が出るようしっかり勉強しなさい

という叱咤でした。


このように、渡部先生の授業は単に知識を与える授業ではなく、常に学生を励まし、知的好奇心をかき立て、やる気を起こさせてくださる授業でした。


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あるとき、先輩方と先生を囲んでコーヒーをいただいていたときのことです。

先生はこの頃ラテン語の文章を暗記していると言われて、かばんからその本を取り出されました。

それを学生にお渡しになると、すぐに暗記したばかりのラテン語を披露してくださいました。

そのご様子は、実に楽しそうでした。

気がつくと、私も覚えてみようかという気になっていました。

先生は教室の内外で絶えず刺激を与えてくださいました。そしてなぜかその刺激がいつも無理なく自然な形です〜っと入ってくるのです。

そんなことを考えていて、

先生は物事の一番の「うまみ」を私たちに凝縮して味わわせてくださるのですが、ある話題を語られるときはいつでも

先生ご自身がそれを本当に楽しんでおられるのがわかるからこそ、その楽しさが私たちに余計に伝わってくるのだと思い至りました。

お話を聴いた私たちは、そんなに面白いならぜひやってみたい、という気になってしますのですから本当に不思議です。


DSCN0363s.jpg


教職につき十数年が経とうとしていますが、渡部先生のように生徒に刺激を与えるのがいかに難しいかをしみじみと痛感する毎日です。

先生の場合、ご自身が理想の姿を提示されることによって私たちを導いておられたのだと感じます。

結局、自分自身を高めないことにはいかなる刺激をも人に与えることはできないのですね。


とにかく、精進したいと思います。


posted by 石崎 陽一 at 22:16 | Comment(4) | 思い出話 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
水平志向と、垂直志向の観点から、
西洋史を紐解く考え方は、
とても興味深く、また同時に、
頭の中でイメージしやすい考え方ですね。

先日、お勧めいただいた『発想法』を読了しました。
渡部先生の、尽きることのない、
また滋養溢れる泉の水を、まず石崎先生が堪能し。
そして石崎先生が、授業やブログ等を通じて、
それらの泉や、新たな泉の場所を、
生徒さんや、オイラ達に案内し。

それらの泉の水を、皆で「美味しいね」と飲み、
笑顔で、元気良く歩き続けられます。
いつも、清涼感溢れる泉の水を、ありがとうございます!
Posted by jiantai at 2010年10月27日 02:12
いつも元気をありがとうございます。然り,然り,と首を縦に振りました。

渡部先生の「英語の歴史」と「語源力」,即買いました。

勉強させていただきます。寒くなって参りました。ご自愛下さい。

田中 十督拝
Posted by 田中 十督 at 2010年10月27日 07:36
jiantaiさま

コメントありがとうございます。
「発想の井戸」という発想は実に示唆的で、いまの私の考え方に大きな影響を与えてくれた考え方です。
専門とは異質な井戸であればあるほど専門の井戸に良質な水をもたらしてくれるのですね。
先生のブログ、楽しみにしております。今日も「明日のために、もう一歩!」ふんばろうと思います。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
Posted by 石崎 陽一 at 2010年11月13日 20:04
田中十督さま

『英語の歴史』は記述が高度に圧縮されているので少し読みにくいところがあるかもしれませんが、類書にはない観点がたくさん入っていて有益です。

特に仮定法の説明もそうですが、不規則動詞の「不規則」の意味など現代英語では「例外」とされている項目が実は「例外ではなかった」ことがわかるなど、知的発見に満ちています。

渡部先生の語源の話はかなり面白いです。

またお話させてください。
Posted by 石崎 陽一 at 2010年11月13日 20:09
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