前出の数えられる名詞の代用としてoneを使うとき、
(1) I am looking for a flat. I'd like a small one with a garden.(フラットを捜しているんだ。庭付きの小さいのがいいな。)
のようにoneに形容詞が付いている場合は不定冠詞のaが必要ですが
(2) I am looking for a flat. I'd like one with a garden.(フラットを捜しているんだ。庭付きのがいいな。)
のように形容詞が付いていない場合には不定冠詞のaを付けa oneなどとはしません。
これが原則です。これは「いわば、‘a+one’が融合しているから」だと安藤貞雄氏は言います。
たしかにaとoneがともにもつ単数の概念が互いにぶつかり合い
くどい印象がありますもんね。
この原則は英文法書や学習英和辞典に広く掲載されています。
したがって、トルーマン・カポーティの作品における
(3) “Is diamond guitar,”said Tico Feo, drawing his hand over its vaudeville dazzle.“Once I have a one with rubies. But that one is stole....”(「ダイアモンドのギターです」とティコ・フェオは、その手を寄席を思わせる輝きをもったギターの上に引き寄せながら言った。「むかしルビー入りのギターを持っていましたが、それは盗まれてしまったのです。…)
のような例は外国人による誤用を表したものと受け取られます。
ところが、
(4) The greatest mistake you can make in life is to be continuously fearing you will make a one.(人生における最大のミスは、ミスを犯さないかと絶えず恐れることだ)
という用例がジーニアス大英和に出ています。(アメリカの作家・教育者エルバート・ハバード( E.Hubbard)氏の言葉だそうです。)
このa oneに関して手持ちの英文法書に片っ端からあたってみましたが、
私が調べた範囲では安藤貞雄『現代英文法講義』(開拓社、2005年)にのみ
(5) I had lots of pencils, and now I haven't got a one!(鉛筆はたくさんもっていたが、いまでは1本もなくなっちゃった!)
という例が載っていました。
そして「くだけた話し言葉では、a oneを感嘆的に‘a single one’の意味で用いることはある」という旨のクワーク(Quirk)氏の記述が紹介されています。
この説明にしたがうと、先ほどの
(4) The greatest mistake you can make in life is to be continuously fearing you will make a one.(人生における最大のミスは、ミスを犯さないかと絶えず恐れることだ)
という例はa one=a single one、つまりa single mistakeと考えて
「1回でもミスを犯してはならぬと恐れて」という意味に解せます。
もっとも
(3) “Is diamond guitar,”said Tico Feo, drawing his hand over its vaudeville dazzle.“Once I have a one with rubies. But that one is stole....”(「ダイアモンドのギターです」とティコ・フェオは、その手を寄席を思わせる輝きをもったギターの上に引き寄せながら言った。「むかしルビー入りのギターを持っていましたが、それは盗まれてしまったのです。…)
の方はその解釈はできませんので、前述のように誤用とみなされるということでしょう。
物事には原則と例外があります。
原則をあえて破るということはそれなりの意図があるということでしょうか。
(追記1)
(1)(2)(5)は安藤貞雄『上掲書』から、
(3)は『続 クエスチョン・ボックス シリーズ 第24巻 補遺・総索引』(大修館書店、1975年)から、
(4)は『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店、2001年)から、それぞれ引用しました。
(追記2)
『英語語法事典 第3集』(簡約版;大修館書店、1983年、p.74)では「〜のような人間」の意で用いられている a one について詳述があります。
(追記3)
市河三喜『英文法研究』(研究社、1969年、pp.1-6)には such an one に関する論考があります。
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